2007年10月01日(月)
第10話 大教訓!? 愛と青春の三者面談[Bパート]
*
翌日。益田西守歌の三者面談が執り行われていた。
「…………」
「…………」
担任教師の目の前にいるのは、黒帽子にサングラス、黒服に身を包んだ男性である。
「……えっと。益田西守歌さんの三者面談ですね」
「はい」
「そしてこちらが、益田さんのお父様」
「いえ、父ではなく、代理の黒服です」
「…………」
ストレートに返された。
「黒服Bです」
と、名刺を差し出される。
「はあ、これはどうも、ご丁寧に」
といいつつ、「黒服」としか書かれていない名刺が丁寧なのかどうかは疑義が残るところであるが。
「それじゃあ、面談を始めましょう……」
気持ちを切り替えて、職務を全うする。
「益田さんは本来、二年生だから、今すぐ進路を決める必要もないんだけど」
本来二年生である彼女が、何故三年生のクラスに在籍しているかというと、それは例によって「権力って、便利でしょ〜?」という次第。
「いえ。進路はもう決まっていますわ。涼様の良き妻となることです」
「…………」
なんとなく、卒業文集で将来の夢に「およめさん」と書く小学生を思い起こす。今の時代、男女差別だと言われるのだろうか。それはともかく、そんないたいけな子供の夢と、彼女の言葉では、現実度と具体性が大きく異なるのであるが。
「涼様が将来、どのような道をお選びになるのかは、涼様の自由です。私に出来ることはただひとつ、そんな涼様をずっと見守ること。たとえ環境が変わっても、いつまでも、どこまでも」
まっすぐな目で、そうはっきりと答える西守歌。
「それが、貴女の意志?」
「はい。私が選んで、私が進む道です」
「……ふふ」
言っていることは正反対に聞こえるが、その芯を通る論理は、案外、水原涼と共通している。なんだかんだ言って、似たもの夫婦である。
「わかりました。進路についてはこれで終わりです」
「え? もうよろしいのですか? 面談時間はまだ余っておりますけれど」
「ええ。ですから、残りの時間は、将来ではなく今のことについて話しましょう。益田さん、この私立鹿角高校の学園生活はどうですか?」
「はい? 質問の意味が判りませんが」
「貴女は、もともと私立山葉女子學院の生徒です。でも、今はこの鹿角高校で学園生活を送っている。しかも、一学年上の授業についていくために、非常な苦労を強いられています」
「それは……最初は大変でしたけど、今はもう」
たしかに、もともと真面目な生徒であったのだろう、最近はほとんどの教科で平均点以上を取るまでに至っている。既に三年の授業は履修内容の大半を終えているので、これから新しく憶えることは少なく、大学を受験する気がないのであれば問題ではないだろう。そう、だからそれは事の本質ではない。
「では、山葉女子學院に戻りたいと思ったことは?」
「…………」
沈黙が返る。うつむいたままの西守歌。隣の黒服は、おろおろするばかり。やがて、ゆっくりと顔を上げる西守歌。
「……戻りたいと思ったことがないと言えば、嘘になります。春になれば、向こうの温室で育てていた花は無事に咲いただろうかと思いを馳せ、夏になれば、夏服のデザインに向こうの制服との共通点を探し。仲の良かった友人たちを想うことは季節を問いません。……でも、それと同じくらい、今はこちらでの生活が大切なものになっているのです。涼様だけではなくて、明鐘さんも、美紀さんも笑穂さんも、他のクラスメイトの方々も。みんなみんな、かけがえのない私の生活の一部なんです。先生……。先生にこんなこと言うのはおかしいですけど、益田財閥の技術力も、まだまだですわね。もう一人の私を作れたらいいのに。私がふたりいれば、山葉にも、この高校にも、どちらにも通うことが出来ますのに。お父様のもとにも、お祖父様のもとにも、涼様のもとにも、いることが出来ますのに……」
声を震わせながら言葉を紡ぐ西守歌に、担任は優しく声をかける。
「もし、そんなことが出来たとしても、それはそれぞれの『益田西守歌』という人間のものよ。みんないっしょじゃない。だからこそ、自分だけの経験というのは貴重なものなの」
「そう、ですわね……」
そっと、涙を手で拭う彼女。
「さて、面談時間はこれで終わりね」
そう言いながら、担任は胸ポケットから眼鏡を取り出す。
「……先生?」
「三者面談は生徒個人のプライバシーに関わるものだから、関係者以外立入禁止。だけど、もう面談は終わり。今日はこの後の予定もないから、私の教師としての仕事もこれで終業。ここからは、私個人として、益田財閥から受けた御恩の分、返させてもらいます」
と言って、眼鏡をかける。
「愛と青春の使者、マジカルティーチャー参上!」
「…………」
反応に困ったような表情をする西守歌。
「さあ、入ってらっしゃい、悩める子ヤギちゃんたち!!」
そう言った瞬間、扉が開かれ、数人の少女たちが教室へとなだれ込んできた。
「「「西守歌さま〜!」」」
「あ、あなた方は……!?」
全員、制服姿ではあるが、この学校の制服ではない。彼女たちは、かつて西守歌の同級生や後輩であった、山葉女子學院の生徒である。
「ど、どうしてここへ……」
驚きを隠せない様子の西守歌を取り囲む彼女たち。
「私たち、ずっと心配していたんです」
「西守歌さまが、お元気でいるか心配で……。聞くところによれば、一学年上の、それも男の方と一緒のクラスだなんて」
「先輩、先輩がお植えになった温室のジャスミン、綺麗に咲きました! 私、写真を撮ってありますの」
堰を切ったように、心に溜めていたであろう想いを口に出す彼女たち。そんなかつての友人たちの言葉に刺激され、西守歌の瞳から、ふたたび涙が流れる。
「「西守歌さま!?」」
「もっ、申し訳ございません! やっぱり、不躾なことをしてしまいましたわ。西守歌さまのお気持ちも考えず、押しかけるような真似をしてしまって……」
あたふたする少女たちを、西守歌が制す。
「いえ、謝る必要はありませんわ。押しかけなら、私も経験がありますし……。謝るとすれば私のほう、本当にごめんなさい。私は、今のこの学園生活を自分で選んだのです。その決断を、私は背負わなければいけない。だから、山葉女子學院に戻ることは出来ません。皆さん、私のことを心配してくださってありがとう。でも大丈夫、みんな良い方ばっかりで、元気でやっていますから」
「西守歌さま……」
「西守歌さまにそう言っていただけるのなら」
「それと、温室のことも、ずっと気になっていたのです。この写真、いただけるかしら」
「え、ええ、もちろんです! 私だと思ってかわいがってください」
「あらあら。その言葉は使うところが間違っていますわよ」
さっきまで涙を見せていた少女たちは、一転して笑顔に包まれている。
「先生」
と、西守歌が、少し離れて様子を見ていた担任のほうを振り返る。
「?」
「今回のこと、本当にありがとうございました。どう感謝を申し上げて良いか……」
「ああ、いいのよ。さっきも言ったとおり、これは私が貴女からもらったものの、いわばお返しだから」
マジカルティーチャーの使命と言ってもいいかしら、とつけ加える。
「はあ……。それは、よくわかりませんけれど」
首をかしげる西守歌。しかし、すぐに少女たちのほうに向き直る。
「それでは皆さん、また逢う日まで……。ごきげんよう」
(完)
次回予告
水原涼「っていうか……ずっと疑問に思ってることがあるんだが」マジカルティーチャー「何かしら? この私が何でも解決しちゃうわよ」
水原涼「あんたはもういい! ……第7話と第8話って、年末の話だよな? 西守歌がうちに来たのが2月だから、もう3年の二学期は終わってるんじゃないのか?」
益田西守歌「ちっちっち、涼様、話数と作中の時間の流れが一致しているとは限りませんよ。世の中には時系列シャッフルという便利な技もあるのです」
芽生百合佳「なんだ、サ○エさん時空じゃないんだ……」
水原涼「百合佳さん、なんで残念そうなんですか? ……あーいや、なんでもないです」
陸奥笑穂「そんなことはどうでもいいのだが……たしか前回の予告で、今回は今まで出番の少ないキャラクタを活躍させると言ったはずだが?」
水原明鐘「あ、はい、私言いました」
守屋美紀「なんで〜? ちゃんと、いままで出てこなかった人がいっぱい出てるじゃん。おかげであたしの出番減ってるし」
陸奥笑穂「守屋はまだいい! 今回でも面談シーンがあるだろう。だが、私は何故面談シーンすら出てこないのだ……!?」
水原涼「…………」
守屋美紀「…………」
水原明鐘「えぇっ!? あ、あたしが読むのこれ!? うぅ、えっと、今回は本当に出番の無かったキャラを活躍させたのであって、笑穂さんはそれなりに出番はあったので割愛しました……」
陸奥笑穂「……出番があるのと、活躍するのは別だと……」
守屋美紀「ちょっ!? えみりん、手に何持ってるの! 落ち着いて落ち着いて」
益田西守歌「あ、次回は未定でーす」
水原涼「このコーナは何のためにあるんだ!?」
* 次回予告はフィクションです
Φなる・えむいち。