Final-M1Φなる・えむいち。Final Emuichi

アニメ「Φなる・あぷろーち」SS
by plateau 2007.10.01
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2007年10月01日(月)

第10話 大教訓!? 愛と青春の三者面談

 人気のない、薄暗い教室。
 と、教壇にスポットライトが当たり、ひとりの人物の姿があらわになる。印象的な萌葱色のジャケットとスカートで身を固め、見るからに大人の女性の風格を漂わせている。
「皆様、ごぶさたしております。私、この私立鹿角高校に在籍しております、水原涼くん、益田西守歌さんたちの担任教師でございます」
 まるで、教壇の前にカメラがあるかのように、黒板を背に語り続ける彼女。
「思えば、私が教職に就いて早や○年……。それなりの経験を重ねてきたつもりですが、彼らほど印象深い生徒たちはおりません。とりわけ、益田西守歌さんに至っては……。彼女がこの高校に転入されたことで、私の人生も大きく変わることになりました」
 その言葉と同時に、黒板に、なにやら旧式の映写機で映し出された映像が浮かび上がる。そこに映っているのは、白衣に大きな丸眼鏡の女性。そして、その背景は、まぎれもないこの学校。これが、今教壇に立つ彼女の、この高校赴任当初の映像だとは、往時の彼女を知る者以外は誰も気づかないであろう。
 そう。彼女は、益田西守歌の編入と同時に、益田財閥の技術力をもって、文字通り生まれ変わったのだった。
「えぇ、それは私とて、教師である前にひとりの女性。嬉しくないはずがありません。でも、それより何より、あの経験は私に、教師としての情熱を……忘れかけていた使命感を取り戻させてくれたのです」
 そう言って、彼女は胸ポケットから眼鏡を取り出す。以前愛用していた丸眼鏡ではない、ローズピンクのフレームが細長いフォルムを強調するファッショングラス。おもむろに、それを額に装着する。
「そう、私が益田財閥から与えられたもう一つの力、隠された使命。説明しましょう。この眼鏡をかけることで、担任教師はマジカルティーチャーへと変身するのだ!」
 勝手に自分で解説を始める彼女。
「ふふふ……。聞こえる聞こえる、愛に悩む若人の叫びが。夢に苦しむ生徒たちの嘆きが。だって教師の労働時間は長いんだもん」
 こんなところで労働環境を愚痴られても。
「愛と青春の使者、マジカルティーチャー参上!」
 決めポーズは特にないらしい。
「さてと。ということで今日の若人の叫びを紹介するわ。神奈川県の悩める子ヤギちゃんから」
 そう言って、何故か教壇の上に置かれていたハガキを取り上げ、声に出して文面を読み上げる。
≪助けてください、マジカルティーチャー。私にはずっと、思い続けている先輩がいるんです。でも、その人とはずっと逢えなくて……。どうしているか不安なんです。お願いです、もう一度だけ逢わせてください≫
「あぁ、なんて純粋な想い! まさに青春ど真ん中。いいわ。その願い、この私が叶えてあげる。待ってなさい、今すぐ行くわ!」
 と、勢いよく教室を飛び出す彼女。
 誰もいなくなった教室に、フィルムの切れた映写機がカラカラ回る音がこだまする。
 と、黒服の男がどこからともなく現れ、フィルムを交換する。
 ふたたび明るさを取り戻した黒板には、見慣れた映像が、聞き慣れた音楽に乗って流れてゆく。

(OP)

 舞台は、同じ教室。だが、ホームルーム中の教室には、当然のことながら生徒たちの姿がある。教室が本来の役割を果たしている日常。
「は〜い、それじゃみんな、もうすぐ三者面談が始まります。そろそろ進路志望を固めないといけないから、一生を左右する重要な面談よ〜。ふっふっふ」
 その担任の言葉を聞いて、窓際の水原涼は驚きの表情を浮かべる。
「……!? 進路って、俺たち、もう三年生だったのか……」
「なーに言ってんのよ、今さら」
 後ろの席の幼なじみ・守屋美紀がツッコミを入れる。
「ええ。私が転入してきたのが二年の三学期ですから、今は三年の二学期ですわ」
「水原らしくない迂闊さだな」
 呼応したかのように、隣の席の自称許嫁・益田西守歌と、その後ろの友人・陸奥笑穂も声を上げる。
「……なんでクラスも席も二年の時のままなんだよ」
 それは言わずもがなのお約束ではあるが、あえて合理的理由をつけるとするならば。
「権力って、便利でしょ〜?」
「どこが合理的理由だ」
 キーンコーンカーンコーン。
「じゃあ、今配った紙に、ご家族の方の都合を書いて、今週中に提出してくださいね」
「……ご家族の方、か」
 水原涼の両親は既に他界している。現在一緒に住んでいるのは、高二である妹の明鐘と、そして。
「ご家族の方、ですって。じゃあ涼様と私は、一度に両方の三者面談を済ませられますわね」
「バカ野郎! そんなわけにいくか!!」
 自称許嫁を名乗る、この益田西守歌であった。いつでも涼の頭痛の種である。
「まあ、またハル兄に来てもらうしかないだろうな」
 近くでプラーヴィという名の喫茶店を営む従兄弟、ハル兄こと武笠春希が、現在の水原兄妹の実質的な保護者である。ちなみに、涼も明鐘も、そのプラーヴィでバイトをしていたりもする。
 ハル兄といっしょに進路相談。涼にとっては、それも頭の痛い問題であった。
「進路か……そんなこと、考えたこともなかったけど」
 気の合う仲間たちとの、高校生活。そんな日々が、ずっと続けばいいと思ってもいる。でも、そんな願いは、叶えられるわけがない。

 *

 そして、水原涼の三者面談当日。臨時に控室として開放された会議室で順番を待つ涼。と、静かに扉が開き、武笠春希が姿を見せる。
「あぁ、ハル兄、おつかれ。どうだった、明鐘の面談は」
 なにかと多忙である春希の手間を省くため、同じ高校に在籍している水原明鐘も同じ面談日に設定してもらっていた。
「問題ない。出来の良い奴だからな、あいつは」
「……それは、兄貴である俺への皮肉デスカ」
「そう受け止めるのはお前の意識の問題だな。兄妹揃って出来の良い従兄弟を持って幸せだ、そう俺は続けようと思っていたのだがな」
 口の達者さでは、この従兄弟のほうが何枚も上手だった。
「面談時刻はまだだったな」
 腕時計を見て春希が言う。
「ああ、今は美紀が面談を受けてる」

 その、守屋美紀の面談の様子。
「守屋さんは、声優への道一筋ね」
「はい、今はそれしか考えていません」
「そうね。ご家族の理解も得られているということですし、なにより貴女本人の希望だものね。大変な目標だと思うけど、貴女なら出来ると思うわ。先生も応援しています。早くプロになって、TVで貴女の声が聴ける日を楽しみにしてるわ」
「ありがとうございますっ」
「役が決まったら教えてね。とくに、魔法少女の役とか」
「まほーしょーじょ……ですか?」
「うん、なんとなくだけど、似合うと思うの」

 ふたたび、会議室。
「そういえば、今日はあのお嬢さんの姿が見えないようだが」
「お嬢……? お嬢なら昨日面談終わったけど」
 「お嬢さん」という春希の呼称に、とっさに陸奥笑穂のことだと思い、涼は言葉を返す。
「いや、彼女ではなく、お前の許嫁のほうだ」
「あぁ……西守歌のことか。あいつは明日だってさ」
 苦笑いを浮かべて、訂正する涼。
(あれ? そういえばあいつ、誰が面談に来るんだろ)
 益田西守歌の父親は健在も健在、日本を代表する大財閥・益田グループの代表である。しかし、娘との関係もあまりうまくいっていないようであるし、そんな大人物が三者面談だからといってこんな学校を訪れるだろうか。それとも、西守歌を溺愛しているらしい祖父が来るのか。こちらもこちらで、益田グループ会長であり、国家権力ともつながりがあるらしい大物であるが……。
(どっちにしても、この学校には不釣り合いだよな……)
 西守歌が、この高校に転入してきた日の騒動を思い出す涼。そして気づく。益田西守歌という超高性能の大和撫子自体、この高校に通っていることが本来は不釣り合いなのだ。
(あいつがこの学校に通ってるのは、俺がいるから、なんだよな)
 それは、けっして自分が望んだことではないけれど。
 そんなとりとめもない涼の思索は、やや乱暴な扉の音によって中断された。
「りょーお。面談終わっ……あっ、ハルさん!」
 面談を終えた守屋美紀が、自分たちの順番を呼びに来たようだった。しかし、その使命は、隣にいる春希の姿を認めたとたん忘れ去られたらしい。急にしおらしく、手を腰の前で組む美紀。
「あの、ハルさん、お久しぶりです……」
「ああ」
 涼と幼なじみの美紀は、当然春希とも顔見知りである。かつては春希に憧れを抱いていたというが、春希が結婚した今も、その想いは消えていないようである。春希も、営業用のスマイルで、美紀とその家族に挨拶を返す。それを見て、また相好を崩す美紀。
「さてと、じゃあ行こうかハル兄」
「あっ、ちょっと涼、もう少し話させてくれてもいいでしょ」
「先生を待たせるわけにはいかないだろ。またプラーヴィにでも来いよ」
 といいつつ、プラーヴィではいつも多忙そうな春希に気安く声をかけられる人間は、たとえ知り合いといえどそうそういないのであるが。
「べ〜っだ。ばーかばーか」
 子供のような反応を見せる幼なじみを尻目に、控え室の扉を閉める涼。

「はい、じゃあ、水原涼くんの面談を始めます。こちらは、涼くんのお父様ですね」
「……!?」
 担任のその言葉に、春希の目が鋭く光る。
「そんな年に、見えますか?」
 隣の席から立ち上る気迫。久々に、背後に龍の気配がするように感じた。
「おほほほほ。まあまあ、ご挨拶がわりの、ほんの冗談です」
 驚いたことに、その気迫を軽くいなす担任。
「ずいぶんなご挨拶だ。お言葉ながら、そういう冗談は人を選んだほうがいい」
「ええ。ですから、人を選んで申し上げたのです。まさか、この程度の冗談で、本気で怒られるような方とも思えませんでしたので」
「…………」
 今になって、この担任教師の底知れなさを見たような涼であった。
「……ふふ。本題に移りましょう。無駄話をしている暇はない」
 気迫を緩める春希に、ほっと一息つく涼。というか、これからが本題なのであるが。
「じゃあ、まず涼くんの希望を聞きましょうか」
「は、はい。えっと、まあ、家計のこともあるし、いつまでもハル兄に迷惑かけてられないんで……」
「必要ない」
「!?」
「必要ないと言ってるんだ、そういう前置きは。環境がどうとか、周りの人間がどうとか、そんなことで自分の人生を決められたくない。お前はいつも、そう言ってきたはずだろう」
「…………」
「就職したいなら好きにしろ。進学したいなら、どこへでも行け。そのための努力をお前が惜しむことがないというのなら、金銭的な問題など、どうとでもしてやる」
「ハル兄……」
 そう、これがハル兄だ。そして、こんなハル兄がいたからこそ、自分はずっと自分のままでいられた。どんなときでも。自分の気持ちに正直に生きる、それが水原涼だ。
「どうやら、貴方にも必要ないみたいね、眼鏡」
 独り言のように、そう漏らす担任。
「は? まあ、視力はいいほうですけど」
「ううん、なんでもないの。お父様のお言葉、まるでいつもの水原くんみたいだったわ」
 まだその「冗談」を引っ張りますか。内心、冷や汗をかく涼。
「水原くんは成績も優秀だから、進学しようと思えば、今からでも充分可能よ。肝心なのは、貴方の気持ち次第。水原くん、あなたが本当にやりたいことは?」
 その担任の言葉を受けて、涼は答える。
「俺は」

 面談を終え、控室の生徒に次の順番を伝えてから校門を出る涼と春希。と、校門で彼らを待ち受けている人々がいた。
「あ、兄さーん。おつかれさま」
「あれ、明鐘? なんだ、待っててくれたのか。先に帰ってていいのに」
「うん、そうしようと思ったんだけど、校門のところで、あやめちゃんと百合佳さんに逢って」
 そう言って、明鐘は隣を指さす。
「こんにちは、涼くん」
「あはは、センパイ、こんにちは〜」
 明るく言って、ひらひらと手を振るのは、プラーヴィでのバイトの後輩である芽生あやめ。高一であるが、学校が違うので、通り過ぎる生徒たちと異なる制服が目立つ。その隣にいるのが姉の百合佳。他ならぬ武笠春希の結婚相手である。こちらは既に高校を卒業しているので、当然のことながら私服である。しかし、あやめよりも背の低いので、並んでいるとどちらが姉か判らなくなる。
「もし、あやめちゃんの担任があの先生で、面談に百合佳さんが来たとしたら、『妹さんが来られたんですか?』とでも言うのかな……」
「……涼くん? それ、どういう意味かな?」
 笑顔のまま、声を低くする百合佳。
「え!? 俺、声に出してた!? いっ、いや、今のは」
「いいもんいいもん。どうせ私は童顔ですよ。いまだに涼くんにも、お姉さんだなんて認めてもらえないんだもん」
 空中に、人差し指で字を書く百合佳。
「ちょっ、拗ねないでくださいよ!?」
「涼」
 ポンと、肩を叩かれる。
「あ、ハル兄。良かった、ちょっと説明してやっ……!!?」
 背後に、龍が見えた。
 本当に、冗談は相手を選ぶべきですね。先生。
「あっ、あのっ。センパイも、よかったら一緒にお食事いかがですか!?」
 不穏な気配を察したのか、あやめが助け船を出す。
「……え、何?」
「あー、そう、そうだった」
 と、胸の前で手を合わせる仕草をする百合佳。
「えっとね、私はハルくんの連れ添いで来たの。ハルくん一人だと、迷うかもしれないから」
「迷うって……」
 涼たちが学校帰りにバイトに行っているくらいだから、ここからプラーヴィまではそう遠い距離ではない。別に、この高校が判りにくい場所にあるわけでもない。
 西守歌が自称許嫁として涼の元にやってきた当初、百合佳はふたりのことを茶化して「らぶらぶ?」と言っていたことがあったが、傍から見れば、このふたりも充分……。
 いや、これ以上余計なことを言って、波風を立てる必要もない。そのくらいの社会性は身につけている涼であった。
「それで、今日はもうお店も閉めたし、たまにはみんなで食事しようと思って、あやめとも待ち合せることにしたの。別に、この校門前じゃなくてもって言ったんだけど」
「せっかくですから、一度センパイの通ってる高校がどんなところか、見てみたくなりまして」
「はぁ……」
 変なところで好奇心旺盛な娘なのだった。
「急な思いつきだったから、涼くんたちには連絡できなかったんだけど……もし都合が悪くなければ、一緒に行かない?」
「え、でも……せっかくの家族水入らずに、悪いんじゃ」
「何言ってるの、私たちみんな家族みたいなものだって、いつも言ってるでしょ」
「まあ……そうですけど」
「あ、そうだ、じゃあ西守歌ちゃんも呼ばなきゃ」
 いそいそと携帯端末を取り出す明鐘。
「っておい、明鐘!?」
「だって、呼ばないと西守歌ちゃん、ずっと家で待ってるよ?」
「わぁ、西守歌センパイも来るんですか! 楽しみ」
 無邪気に喜ぶあやめ。
「ふん……久々に、あのお嬢さんと刃を交えるというのも悪くない」
「あのー、もしもしハル兄? 食事だったはずじゃ」
 「箸を交える」の間違いだと思いたい。きっと洋食なのだ。
「あ、西守歌ちゃんと連絡取れました。いますぐ自家用ヘリで来るって」
「そんなもん使わんでいい! 普通に歩いて来い!」
 言ってから、西守歌を呼ぶのに変わりはないことに気づく。
「はぁ……。やれやれ。まあいいか」
 毎日が過ぎていく。いつまでも同じ日々が続くという保証もない。
 でも、だからこそ、こんな日常を失いたくないと思える、そんな「今」があることを感謝したいと思う。
 そして、願わくは、「明日」が来ても、また同じ想いを抱ける「今」になるように。

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