Final-M1Φなる・えむいち。Final Emuichi

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2005年09月24日(土)

「Φなる・えむいち。」第5話 大熱唱! 愛と泪のカラオケ大会

 時は夕刻。いつもと変わらぬ、水原兄妹+1、水入らずの夕食である。
「はぁ……」と、ため息をつく涼。「なんか最近、いろいろあって気分が重いな」
「まあまあ、それはいけませんわね涼様。ストレスは現代人の天敵。ちゃんと発散しないと」
「……そのストレスの大半はお前が元凶だっての」
「ストレス発散には、大きな声を出すのが一番」
「それもお前のせいで毎日やっとるわい」
「どうです涼様、明鐘さん、今度の週末、みんなでカラオケにでも参りません?」
「え、カラオケ? 行く行くー、そういうのならあたしに任せといてよー」
「のわっ美紀! お前、どっから湧いてきたんだ! って、このセリフを俺に言わせるな!!」
「まーいいじゃん、細かいことは気にしないの。笑りんにも連絡入れとかなきゃ。で、どこのカラオケボックス行く?」
「それでしたらご心配なく。わたくし、丁度良いところを存じておりますの」
 (主題歌略)

 週末。涼たち五人は、郊外にそびえ立つ超高層ビルを見上げていた。
「……って、でかっ」
「ここは来月オープン予定の最新型のアミューズメント施設です。この最上階が、我が益田工業が開発に携わった、少々変わった趣向を凝らしたカラオケボックスになっております。ささ、皆様、どうぞ中へ」
 と、巨大な自動ドアが音もなく開く。円形のロビーにはまだ一般客の姿はなく、関係者らしいスーツ姿の大人たちがちらほらと見える。
「な、なんか緊張しちゃうね、兄さん……」
「んー、でもまあ、せっかくだから楽しもうぜ。……ん? どうしたお嬢、難しい顔して」
「いや、ちょっと気になることがあってな」
 と、陸奥笑穂が答えるやいなや、as soon as の例文にそのまま使えそうなタイミングで、エレベータから一人の男性が姿を現した。
「ふふふ……久しぶりだな益田西守歌」
「あ、貴方は!」
「ふわはははは! いつぞやの海では妹が世話になったな!」
 陸奥笑穂の兄、直洋であった。
「……やはりな」
「どうして貴方がここに」
「ふ、愚問だな。このビルは我ら陸奥グループが開発を担当したのだ。そんなことも知らなかったのかい、益田家のお嬢さん」
 かちーん。と、涼には、西守歌の頭の中でそんな音が鳴ったような気がした。
「直洋様、どうもご無沙汰しております。こちらこそ先日はどういたしまして。そういえば、あのときの勝負がまだついていませんでしたわね……?」
「そうでしたな。前回は結局、不要に多くの火薬を使ったために海上保安庁に睨まれて、やむなく撤退をする羽目になったのですが。よもや、あれで休戦条約が結ばれたなどと思ってはいないでしょう」
「ええ、もちろん。人生は常に戦場ですわ」
「な、なんか、二人の後ろに火花が見えるんですけど……」
「えーん、こわいよー、兄さ〜ん」
「……やれやれ」
「あーもう、なんでもいいから、早くカラオケしようよ〜」
 と、その守屋美紀の一言に顔を向ける西守歌。
「それですわ美紀様! ズバリ今回は、カラオケで勝負、ということではいかがでしょう。益田グループと陸奥グループで共同設計したあの部屋なら、文句はございませんのでは?」
「ふ、望むところです」
「おーっ、いいじゃん、なんか面白そうな展開になってきたわー」
「まったく、なんでいつもこうなるんだか」

 そして、最上階の部屋に案内される涼たち。いったんエレベータを出たあと、ガラス張りの短い空中回廊を通って、大きな扉を開ける。
「ふえ〜、内装も豪華だねー」
「もちろん、トータルコーディネイトというやつです。ちなみに内装を担当したのは私です」
「内装なんて飾りです! そんなことより、このカラオケシステムをご覧ください! 通信カラオケ史上初の1TB HDDを搭載しておりまして、歌える曲数は業界トップ! どんなマイナーで特殊な趣味の唄でも歌えますわよ」
「へー、いいじゃんいいじゃん。じゃあまずは一番・守屋美紀、歌いまーっす! 曲は田村」
「ちょっと美紀様」
 と、リモコンを持った美紀の腕をグッとつかむ西守歌。
「なによー西守歌ちゃん」
「何をと申しますか、その、いろいろ複雑な大人の事情がございますので、選曲にはくれぐれもご注意を」
「えー、田村正和の『古畑任三郎のテーマ』を歌おうとしたのがそんなに悪いー!?」
「いや、っていうかそんなの歌えないだろ」
「んーと、じゃあこれ!『野うさぎマーチ!』」

 野うさぎマーチ! 野うさぎマーチ! ぴょん ぴょん ぴょん!!
 野原を ぴょんぴょん
 自由に ぴょんぴょん
 ときどき 気まぐれ あなたのハートに ぴょん ぴょん ぴょん!!
 女の子だったら みんな持っているの それは乙女のコ・コ・ロ(はぁと)
 かわいがってね やさしく なでてほしいのよ

 野うさぎマーチ! 野うさぎマーチ! ぴょん ぴょん ぴょん!!
 雪山 ぴょんぴょん
 真っ白 ぴょんぴょん
 どきどき 気ままに あなたのハートに ぴょん ぴょん ぴょん!!
 女の子だから みんな知っているの それは乙女のヒ・ミ・ツ(はぁと)
 めんどうみてね いつでも まっていますから
 『うさぎはさみしいと 死んじゃうんだぞ☆』

「いえーい! ……あれ、どしたのみんな?」
「ど、どうって、お前な」
「と、とりあえず採点に移りましょう」
 西守歌がリモコンのボタンを押すと、ディスプレイにアニメ絵風のSDキャラがふたり現れる。軽快な音楽とともに、サイコロを振るふたり。
「わくわく」
 たったららーん! ……58点。
「ちょっとー! どーいうことよそれー!? 壊れてんじゃないのコレ!!」
 と、手に持ったマイクを振り回す美紀。それが機材にぶつかり、画面が乱れる。
「あ」
「…………」
「そっ、それでは審査員の皆様、判定を!」
「おいおい、ちょっと待て!」
「まあまあ直洋様、勝負事に不測の事態はつきものです。ちょうどここには6人揃っておりますから、歌われた方以外の5人でそれぞれ10点満点評価をしていただき、それを二倍すれば100点満点になります」
「む……まあ、そうだな」
「それでいいのか、あんた……」
「それでは一斉に判定をどーぞ!」
 益田西守歌:8点
 水原涼:3点
 水原明鐘:10点
 陸奥笑穂:7点
 陸奥直洋:1点
「合計は29点! さらに倍してドン! 守屋美紀様、58点です〜」
「って、変わってないじゃない! ってか涼、あんたその点数は何よ!!」
「いや、これでも温情でかさ上げした方なんだが」
「なーんですって〜!?」
「い、いてて、やめろ、狭い室内で暴れるな」
「さてー、それでは次の方に参りましょうか〜」
「ふ、ではこの俺が」
「はい〜、では陸奥直洋様、どうぞ〜」
「曲は……『駆けろ! ジャストオーシャン!!』」

 JUST! JUST! JUST・ICE!!
 正義の心は〜 ただ冷たい〜
 孤独に震え 今日も都会(まち)をゆく
 クールな微笑み 氷の仮面
 溶かしてくれるのはそう
 愛しい妹の 笑顔〜
 ジャ〜スト〜オーシャ〜ン その名に負いし
 宿命果たす その日まで 走り続けろ!!
 JUST! JUST! JUST・OCEAN!!!

 OCEAN! OCEAN! OCEANIA!!
 コアラの心は〜 有袋類〜
 孤独に震え 今日もオリの中
 つぶらな瞳に 浮かぶ観念
「ぴっ」
 と、リモコンのストップボタンを押す西守歌。
「こーらー!! 何故途中で止める!!!」
「いえその、珍曲メドレーはもうけっこうですので。ささ、判定のほうを」
 益田西守歌:1点
 水原涼:2点
 水原明鐘:10点
 陸奥笑穂:8点
 守屋美紀:6点
「合計は27点、さらに倍してドン。陸奥直洋様、54点です」
「ぬぬ……」
「いや、なんか、カラオケって人の意外な一面が見れたりするもんだな〜」
「なんだその目の逸らし方は。それはいいが、笑穂、お前までそんな点数を」
「兄上……。これでも実の妹として、精一杯の誠意を示したつもりなんだが」
「はいはい、もう皆様、こんなことではせっかくの最新鋭設備が宝の持ち腐れですわよ?」
「お前が言うな」
「仕方ありませんわね。ここはわたくしが超高性能の大和撫子として、お手本をお見せしましょう」
「大和撫子がカラオケって……」
「曲はもちろん、やまとな」
「おい!! お前な、自分で言っといて」
「冗談ですわ。『LOVE☆LOVE☆涼様』!」

 ららら LOVE☆LOVE☆ 涼様! GET YOU!!
「だーっ! やめーい!!」
「もう、注文が多いですわね。そんなに私をお召し上がりになりたいのですか? では、『HAPPY SHINY HOLIDAY☆』でまいりましょう」

 (Shining, Shining... Wake up early, my darling!)
 朝ですよ ベッドの君に声かけて
 カーテン開けて 日差しをチェック
 うん! 今日もいい日 そう決めた!
 トーストにバター サニーサイドアップ
 平日(いつも)よりちょっと手間かけて
 ドリップコーヒー おそろいのカップ
 SHINY HOLIDAY 幸せだね
 今日はどこに出かけようか

 先行くよ 遅れる君に声かけて
 河原をスキップ 水面がまぶしい
 うん! やっぱりいい日 決まってるね
 土手に座って そろそろお昼
 サンドイッチちょっと崩れちゃった
 でもまいっか! いっしょに食べよ
 SHINY HOLIDAY 幸せだね
 明日もどこか出かけようね

「ご静聴ありがとうございました。それでは判定お願いしますー」
 水原涼:7点
 水原明鐘:10点
 陸奥笑穂:8点
 陸奥直洋:1点
 守屋美紀:9点
「……なんか、フツーにいい曲だったというしか」
「まあ、あたしほどじゃないけど、やるわね〜西守歌ちゃん」
「うわぁ、西守歌ちゃん素敵〜」
「ありがとうございます明鐘さん。合計は35点、倍して70点ですか……まあまあですわね。どうやら、こちらの圧勝は
間違いないようですね」
 と、左うちわで陸奥直洋を見下す表情を見せる西守歌。
「くっ、何を言うか! まだこちらには切り札が残っている! 笑穂、行け!!」
「なっ……!? わ、私は兄上の側なのか?」
「ああ〜、なんて兄想いの妹なんだ、俺のために歌声を披露してくれるなんて」
「誰もそんなこと……まあいい、陸奥笑穂、歌います。曲は、『愛と泪と男と女』」

 吹きすさぶ 潮風に
 愛しいアイツの なまえをよんだ
 返ってはこない 永遠の旅路
 女は男の帰りを 黙って待つものだなんて
 誰が決めたか 私は待たない
 あゝ高波よ 私を連れてって
 アイツのもとへ 連れて行って
 そして一発 平手打ち

 止めどない 潮騒に
 負けずお前も なまえをよんで
 二度と聴けない 幻の三文字
 女は男をいつでも 奪い合うものだなんて
 誰が決めたか 望むところだ
 あゝ高波よ 私を連れてって
 アイツのもとへ 連れて行って
 そして一撃 ビール瓶

「……どうも」
「ブラボー! 笑穂ブラボー!!」
 と、割れんばかりの拍手を送る直洋。
「サイコーだよー笑りーん! いよっ千両役者」
「な、なんかよく判らんが、悪寒がしてきたな」
「……それでは判定をどうぞ」
 益田西守歌:5点
 水原涼:7点
 水原明鐘:10点
 陸奥直洋:10点
 守屋美紀:10点
「合計点は42点、さらに倍して……陸奥笑穂様、84点」
「うわははは! どうだ参ったか! もう俺は誰が歌おうと1点しか出さんからな!! こっちの勝ちも同然だ!」
「くっ……仕方ないですわね。こうなったら最後の手段ですわ。涼様、明鐘様、お願いします!」
 と、西守歌は水原兄妹をステージに押しやる。
「え? わたしたち二人で?」
「デュエット、ってことか?」
「そうですわ。悔しいですが笑穂様に勝てるのは、おふたりしかございません!」
「ふん、ムダなことを」
「ま、まあいいか……じゃあ曲は明鐘、お前選べよ」
「う、うん兄さん。な、なんか、兄さんとふたりで歌うのなんてはじめてだから、緊張しちゃうな……。えっと、じゃあこれ。『ずっといっしょに』」

 (LaLaLa... God bless you!!)
(♀)ねえ兄さん わたし昨日 夢をみたの
   兄さんと結婚する夢
(♂)それはきっと 正夢さ
   ふたりの愛は 法律も変える

  (なんなら民法を改正いたしますわよ〜?)
  (だーっ! お前は出てくるな!)

(♂)思い出のアルバム そっと開けたなら
   そこにはいつも ふたりの笑顔
   そしてこの先も ずっとずっと

(♀&♂)愛してるなんて 恋人みたいな
     そんな言葉 ふたりにはいらない
     それが兄妹 それが絆

(♂)バイト帰り 桜並木道 ふたり歩く
   子供のころの 通学路
(♀)あのころみたいに もう一度
   そっと手と手を 握りたい

  (抜け駆けは許しませんわよ〜!)
  (やだもう、そんなんじゃないってば〜)

(♂)思い出にいつか 変わるのでしょうか
   今ここにある ふたりの笑顔
   願うはこの先も ずっとずっと

(♀&♂)好きだよなんて 恋人みたいな
     そんな言葉も たまにはいいかな
     それが兄妹 それが絆

「いえーい! 良かったよー鐘ちゃん! 涼、この幸せ者ー」
「まったく、この兄妹には敵わないな」
「あ、えっと……どういたしまして」
「こ、これは……まさに究極の兄妹愛! な、なんだこのとめどなくあふれる涙は」
「さてさて〜、それでは皆様、判定をどーぞ!」
 益田西守歌:10点
 陸奥直洋:10点
 陸奥笑穂:10点
 守屋美紀:10点
「ハッ!? お、俺は何を」
「じゅってんじゅってんじゅってんじゅってん、合計40点〜! 4人ですので2.5倍いたしまして、と言うまでもありませんわね。100点満点、勝者は水原涼様、明鐘様ご兄妹〜!!」
 パーン、と、ミラーボールがくす玉のように割れ、中から紙吹雪が舞い降りる。
「バ、バカな……」
 ガックリと崩れ落ちる直洋を尻目に、ステージに駆け上がり、兄妹を祝福する一同。
「さてさて、それでは、優勝の副賞授与とまいりましょう。賞品はハワイ旅行一泊二日です〜」
「な、何!?」
「今回ばかりはわたくしも、明鐘様に涼様をお譲りいたしますわ。ただし、今夜限りですわよ?」
「え、今夜って……?」
「ちっちっち。はじめに申し上げましたでしょう? このカラオケボックスは、少々変わった趣向を凝らしている、と」
「な、まさか」
 西守歌の言葉に、部屋の入り口へと向かう涼。重い扉を開けると、とたんに突風が飛び込んできた。
「なんじゃこりゃー!!」
 そこに広がっていたのは、絶景のオーシャンビューだった。
「業界初! 空飛ぶカラオケボックスですわ。カラオケをしながら、世界各国、どこへでも向かうことが出来ます。あ、涼様、そろそろミッドウェーが見えてきますわよ」
「な……な……」
「おふたりとも、今日はストレス解消になりました?」
「なってたまるかー!!」
 ちゃっちゃらん♪(つづく?)

次回予告

武笠晴希「ふん、涼の奴、妹想いは相変わらずだな。それはいいとして、何故俺がこんな予告をせにゃならん。本編には一字たりとも! 一言も! 出てこないというのに」
芽生百合佳「ハルくん、こんどわたしたちもいっしょにカラオケ行こっか?」
武笠晴希「む……そうだな、たまには悪くない。なんなら、店はあいつらに任せて、今からでも」
水原涼「っておーいハル! 何勝手なこと言ってんだよ! あぁもう、予告もほっぽり出して」
武笠晴希「知るか。勝手にやっていろ」
水原涼「そ、そんな〜。しょうがない、明鐘、予告を頼む」
水原明鐘「は、は〜い兄さん。あれ? 台本がないよ? あ、なんかカンペが回ってきた……えっと、『ぷらとーより 次回のタイトルはまだ考えてません あしからず』」
水原涼&明鐘「え〜〜!!?」