2005年07月18日(月)
「Φなる・えむいち。」第3話 大混乱!? 愛と幻の人格交代!
それはある日の放課後、校舎の玄関でのこと。「あ、兄さんたち」
「おう、明鐘」
「やっほ〜、鐘ちゃん」
「兄さん、今日はPlaviでバイトなんだよね」
「ああ」
「あ、そうだ、久しぶりにあたしたちも寄ってかない? ね、笑りん」
「ああ、そうだな」
「あ、じゃあ私、先に帰って夕食の支度してるから」
「それでしたら、わたくしもいっしょに買い物におつきあいいたしますわ」
「え、西守歌ちゃん、でも……」
「いえいえ、いつもお世話になっていますから、お手伝いします」
「じゃ、俺たちはPlaviに行ってるから」
「行ってらっしゃいませ、涼様。……さ、明鐘さん、私たちも帰りましょう」
「う、うん……」
「あっ! いけませんわ、わたくしとしたことが、教科書を教室に忘れてきてしまいました。明鐘さん、申し訳ありませんが、少々お待ちいただけますか? すぐ戻りますので」
「あ、うん」
と、階段を駆け上っていく西守歌。
しばらくして、階段の踊り場から西守歌の顔が見えた。
「明鐘さん、お待たせいたしました……きゃ!」
と、段差に足を滑らせる西守歌。
「あっ、西守歌ちゃん、危ない……!」
勢い余って、ふたりとも頭を打ってその場に倒れ込む。
「あいたたた……西守歌ちゃん、だいじょう……」
目の前に広がった光景に、明鐘は息を呑む。
「きゃっ、きゃあああ〜!! あ、あたしがもうひとりいる〜!?」
ちゃっちゃっちゃーら(略)
保健室。
「……よし、しばらく安静にしていれば大丈夫でしょ」
「は、はぁ……」
「? どうしたの、益田さん? 用事があるなら、先に帰ってもいいわよ? 事情は先生が話しておくから」
「…………」
「益田」と呼ばれた少女は、先生から、そのそばのベッドに寝ている少女に目線を移す。淡いブルーのショートカット、「水原明鐘」の姿をした、彼女に。
混乱していた心が、すっと冷えていく。
(……やっぱり、この体。西守歌ちゃん……だよね。そして、あそこに寝ているのが私の体……。信じられないけど、さっきのショックで、私と西守歌ちゃんの心と体が入れ替わっちゃったんだ……)
「え、えっと、とりあえず、兄さ……りょ、涼様に、連絡してきます」
「え? ああ、そうね……」
ふらふらと保健室を出て、後ろ手でドアを閉める。一瞬息をついて、そのドアにもたれかかる。
「そうなんだよね……。いまの私は、西守歌ちゃんなんだ。それらしく振る舞わないと、怪しまれちゃう」
と、廊下を玄関に向かって歩き始める明鐘。
「……あっ!? って、ってことは、兄さんに対しても、いつもの西守歌ちゃんみたいに、抱きついたりしてもいいってことに……。や、やだ私ったら、何言っ てるんだろ、兄さんにはちゃんと事情を話して判ってもらって……。で、でも、西守歌ちゃんの言うことだからって、聞いてもらえなかったらどうしよう。それ よりは、せっかくだから一度くらい……。でもでも、そんなの西守歌ちゃんに悪いし……」
と。
「……西守歌?」
「ひゃうっ!?」
驚いて顔を上げたその先には、見慣れた顔があった。
「に……い、いや、涼様……」
心臓が早鐘を打つ。自分のものではないからか、余計に高揚した気分になる。
(どどど、どうしよう……。え、えーい! こうなったら!)
「りょ、涼様……!」
そのまま相手の胸に飛び込む明鐘。
「…………」
しかし。相手は、彼女を両手で受け止めて。
「え?」
そして。
「ひぃっ!? な、ななな、何するの、兄さん!」
「……兄さん?」
「あっ……」
慌てて口を押さえる明鐘。だが、相手の目は自分を凝視したまま。そして、口を開いた。
「お前……ひょっとして」
「え、えっと……」
「……鐘ちゃん?」
「……え?」
「うふふ、そ〜か、そうなんだ〜」
「あ、あの、ひょっとして、兄さん、じゃなくって」
「そーれっ!」
「きゃっ!! や、やっぱり、みいちゃん!?」
「えへへー、やっぱり鐘ちゃんだー。でも体は西守歌ちゃんでー。うふふ〜、なんかいいわね〜こういうの〜」
「ちょ、ちょっと、やめ……」
「なーにをやっとるんじゃーい!!」
突如、「水原涼」の身体に猛烈なアタックをかけるひとりの女子生徒。
その姿は守屋美紀、いや。
「え、えっと……ってことは今は……兄さん?」
その明鐘の声に振り向いて。
「大丈夫だったか、明鐘」
「に……兄さん! 私のこと判るの!?」
「当たり前だ! どんな姿形をしていようとも、たったひとりの妹、見分けられないわけがあるか!」
「兄さん……」
「はいはい〜、相変わらずのシスコンぶりですこと〜」
「俺の口でそういうことをしゃべるな!!」
(……どうしよう、私、兄さんとみいちゃんが入れ替わってること気づかなかったよ……)
喫茶Plaviにて。
「……まあ、もう鐘ちゃんも判ってると思うけど、そういうこと。さっき、涼のヤツがコーヒー運んできたときに足を滑らせて、あたしのほうに倒れ込んできて。それでふたりとも頭を打って、それで」
「心が、入れ替わっちゃったんだ」
「まったく、いくら最近非常識なことが多いからって、こんなことありえるか? だいたいお前、そのまま俺を放っといて学校に行っちまうし。何考えてんだよ」
「え〜、だって、せっかく涼の身体があたしのものになったんだもん。せっかくだから、いろいろ体験してみたいと思うじゃない? いつも西守歌ちゃんのアタックを受けてる気分はどんなものかとかさ」
「物好きな……」
「え〜、でも、鐘ちゃんも似たようなもんだっ」
「あっ、あわわ、みいちゃん!!」
「ん? 明鐘がどうしたって?」
「な、なんでもないの、兄さん!」
「……? しかし、まさか明鐘まで西守歌と入れ替わってるとはな。なんとかして、元に戻る方法を考えないと……。おい、お嬢、黙ってないで、お前もなんとか言えよ」
と、笑穂は手に持っていたコーヒーカップを置いて。
「そう言われてもな。悪いが、私は当事者でもないし、とても信じられん。しかしまあ、何というか、お前らがそうやって話してるのを傍目で見ていると、思わず笑いが込み上げてくるな」
「笑い事じゃないっつうの! おい明鐘、美紀、お前らだってこのままなんて嫌だろ!?」
「え〜? あたしは別に構わないけど〜。鐘ちゃんや西守歌ちゃんと暮らせるわけだし〜。鐘ちゃんだって、お兄さんが婚約者なんだよー。嬉しいでしょ」
「え? えっと、その……」
「美紀、お前な! 明鐘も、だから俺はそっちじゃなくてこっちだっつの!」
「……そういう対象としてだけならば、見た目が同じならば、中身は問題にならないんじゃないか?」
「お嬢は黙ってろ! どうしてそのセリフを知ってる!」
「な〜によぅ涼、あんた、あたしの身体じゃ不満なわけ?」
「だから、俺の口でそういうセリフを吐くなっての……。あ〜あ、不満だね、こんな色気のかけらもないような身体。こんなスカートはいてなかったらとても女には」
「こーらー! あたしの身体でそんなはしたない真似するなー!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ一席。そこに、Plaviマスター・武笠晴希の足が近づく。
「おい、お前ら、他の客の迷惑だぞ。いい加減に……」
「ぬおー、くーらーえー!」
「どわー、待て待て、お前、自分の身体に!!」
「あ、そっか」
だが、美紀の拳の勢いは止まらず。
「む」
「あっ」
がっしゃーーん。
そのまま笑穂のいた席に倒れ込む晴希。
「きゃっ、ハルくん、だいじょうぶ!?」
「ハル兄さん!」
「あっちゃ〜……ご、ごめんなさい……」
ギラーン。
「……ちょっと、何してんのよあの子、私たちの晴希様に」
「ねえねえ、あの人晴希様のご家族らしいわよ」
「うっそ、家庭内暴力!?」
「いやねー、最近の子供は」
「う……うう……。まわりの客の目が冷たい……」
「ごめんね涼くんたち。ハルくんは私が看病するから、今日はもう店を閉めましょ。そっちも大変だと思うし」
「ご、ごめんなさい、百合佳さん……」
「ねえ、笑りんも起きてよ」
「んん……」
「と、とりあえず、客の目が怖いから、お前ら外に出てろ。お嬢は美紀、お前が負ぶってけ」
「えー、あたしがー?」
「お前の責任だろが。俺の身体なんだから大丈夫だろ」
「ふーんだ。明日筋肉痛にしてやる」
で。どっかの公園にて。
「さてと……。そろそろ本気で元に戻る方法を考えないと」
「うーーん。やっぱ、入れ替わったときと同じように、もっかい頭をぶつけるしかないんじゃない?」
「そ……それしかないのか」
「うふふ……じゃ、いっくよー」
じりじりと涼に歩み寄る美紀。
「や、やめろ、怖い」
「なによぅ、あんたの顔でしょ」
「そ、それはそうだけど……やっぱりもっとスマートな方法が……。そ、そうだ! あの西守歌の黒服集団、あいつらを呼ぼう!」
「えー? あの人たち呼んでどうするのよ?」
「非常識な現象には非常識な奴らをだ! あいつら、西守歌に言われて意外にいろんな道具持ってたりするから、ひょっとしたらなんかの役に立つかもしれん」
「で、でも、西守歌ちゃんがいないのに、どうやって呼べば」
「今はお前が西守歌だろ明鐘! あいつが前黒服を呼び出した笛が、どっかに持ってるはずだ!」
「あ、そっか。えっと……あ、あった、これだ」
「よーし、じゃあ明鐘、それを吹いて」
「それには及びませんわ」
と、公園の入り口から入ってくる少女。
「あっ、明鐘……いや、西守歌!」
「彼らは我が益田財閥の従順な僕。いくら姿形がわたくしであろうと、明鐘さんが笛を吹いたのでは現れませんわ。このわたくしでないと! おーっほっほっほっ」
「兄さん……なんか、恥ずかしい」
「明鐘の格好してああいうしゃべり方されると、いつも以上にムカつくな……」
「さあ、黒服さんたち! おいでらっしゃい出てらっしゃーい!!」
しーん。
「あ、あら? えっと、黒服さーん!! ちょっとー!」
「……おい、明鐘」
「あ、うん」
ぴーひょろろ。
「お呼びでございますか、西守歌様」
「…………」
「あ、あの、ちょっと訊きたいんだけど」
「ふふふ、仕方ないですわね、ならばお話ししましょう」
「お前には訊いてないっつの」
「そう! これは我らが益田工業が開発中の極秘製品、その名も『人格交代くるくるりん1号』!!」
「……は?」
「だれもが青春時代に一度は夢見た『あれがあいつであいつがおれで』シチュエーション! それをいま現実のものに! あくまで偶然の事故を装って、憧れのあの子とチェンジ! 使用後の人体への副作用もありません! 今ならお安くしておきますわよ奥さん!」
「だーれが奥さんかー! じゃなくって、おい! まさか、お前」
「とりあえず、明鐘さんとでテストをしてみようかと。もちろん明鐘さんにはすぐに事情をお話しするつもりでしたが、ちょっと派手に転びすぎてしまって、わ たくしの意識が戻るのが遅れてしまったのが誤算でしたわ。脳波制御用の電磁波のキャリブレーションに失敗して、涼様たちにまで影響してしまいましたし」
「「「……おーまーえーなー!!」」」
「! ご……ごめんなさい……兄さん」
「うっ……ま、まあ、元に戻れるんならいいが」
「ちょっと兄さん! あれはあたしじゃなくて西守歌ちゃん!」
「あう、す、すまん」
「はぁ。西守歌ちゃん、ややこしくなるだけだから、さっさと元に戻しちゃってよ。あたしもそれなりに楽しんだしさ」
「あ、そうですわね美紀様。でも、せっかくですから」
「え?」
「その、涼様のお顔とお口で、わたくしに愛の言葉を注いでいただけませんか?」
「さっさとやらんかーい!!」
「うう……わ、わかりました。では黒服の方々、装置を動かしてください!」
しーん。
「……明鐘」
「あの、お願いします」
「はっ」
きゅいーん。
「…………」
ぴろぴろぴろーん。
「おお、やった、元に戻ったぞ!」
「あーん涼様ー! やっぱり元のままが一番ですわねっ!」
「ええいくっつくな!」
「……ふう。あー、ほんのちょっとだったけど、自分の身体に戻れると安心するよねー」
「そだね、みいちゃん」
「ところでさ、鐘ちゃん」
「え?」
「涼の身体がどんなんだったか、知りたくない?」
「なっ!?」
「あははー、ごめんごめん冗談だよー」
「もう、みいちゃんったら!」
「ん、んん……相変わらず騒がしいな」
「あ、笑りん、やっと起きた。だいじょぶ?」
「……いや、何ともない」
「そ。じゃ、帰ろっか。おーい涼、西守歌ちゃーん! ふたりでさっさと帰るなー!」
翌日。
「おっはよー。昨日は大変だったねー」
「おう美紀。まったく、お前、俺の身体を乱暴に扱うなよ。全身筋肉痛でかなわん」
「ふーんだ。鍛え方が足りないんでしょ」
「いやですわおふたりとも。その会話、知らない人が聞いたら誤解しますわ」
「お前が言うなっ!!」
「……ん、ねえ笑りん、なんか様子が変じゃない? やっぱ昨日の打ち所が悪かったんじゃ」
「いや、別に……」
どだだだだた。
ばーん。
「こーらー!!」
と、ドアを激しく開けてつかつかと涼たちに歩み寄ってくる一人の男性。
「な……ハル!? なんでここに?」
「……私の身体、返してもらおう」
「……え?」
「「「えええー!!?」」」
(つづく?)
ちゃっちゃらん♪
次回予告
水原涼「はいー、ということでちょっと間が開いてしまいましたが、懲りずにΦなるSS第三弾、どうだったでしょうか!」陸奥笑穂「…………」
水原涼「お、おい? お嬢?」
陸奥笑穂「ちょっと、この馬鹿な話を書いた男に話がある。毎度毎度、この私を何だと思って……」
守屋美紀「ま、まあまあ笑りん、落ち着いて」
陸奥笑穂「……お前はそう言えるだろうな美紀、お前は何故か知らんが寵愛を受けているからな」
守屋美紀「え、えー? なんのことやらー」
武笠晴希「ふん。文句を言いたいのはこっちのほうだ。これならまだしもアニメ本編のように出番が少ない方が」
芽生百合佳「ハルくん、笑穂ちゃんの身体は居心地が良かった?」
武笠晴希「…………」
水原涼「…………」
守屋美紀「……え、えっと……これ、続けられるの?」
益田西守歌「もっちろん、まだまだ続きますわよ! 次回は夏といったら恒例、みんなで海水浴ですわ!」
水原涼「って、全然懲りてないんかい!!」
益田西守歌「ああ、わたくしと涼様との、ひと夏のアバンチュール……次回『Φなる・えむいち。』 第4話、『大遠泳! 愛と生の水しぶき天国』お楽しみに〜」
守屋美紀「ねえ、でもこのSS、実は西守歌ちゃんってけっこう扱い悪くない?」
Φなる・えむいち。