2005年05月05日(木)
「Φなる・えむいち。」第2話 大名古屋! 愛と地球の博覧会!
時は5月1日の夜。舞台は再び、水原兄妹の住まうアパートの一室。ふたりと一緒に夕食を囲んでいた、益田西守歌が唐突に口を開いた。「涼様。涼様は、愛を信じますか?」
「……はあ?」
「もちろん信じますわよね。いつもこうして、わたくしからのあふれんばかりの愛を全身に受けているのですもの。わたくしも常に感じておりますわ、涼様からの熱い愛のエネルギーを」
「なーに言ってんだお前」
「ですから、今、時代は愛なのです! 涼様、もちろん明鐘様も、せっかくのGWですし、みんなで愛・地球博に参りましょう!」
ちゃっちゃっちゃーら(以下略)
そして翌日、学校にて。
「えー、いいなーいいなー、あたしも行きたーい」
「もちろん、美紀様や笑穂様の分のチケットもございますわ。それも超VIPにしか配られないプラチナチケット、これさえあればすべてのパビリオンに行列なしで入れます」
「ホントー!? さすが西守歌ちゃーん。やっぱ持つべきものはお金持ちの友人だよねー」
「あのなぁ美紀、そういう言い方はないだろ」
「なによぅ涼、冗談だってば。あんたとあたしは十年来の幼なじみ。お金なんて関係ないわよ」
「そのかわり食事には簡単に釣られるけどな……」
「た・だ・し、ですわ」
「?」
「皆様を招待したいのはやまやまですが、ここにあるのはペアチケットです。はっきり申しましてわたくし、せっかくの涼様とふたりっきりの万博デートのチャンスを逃したくありませんわ」
「おいおい西守歌、お前また勝手に」
「ええ、ですから、ここは公平に」
「そうだな、ここは公平に麻雀で」
「公平にくじびきで決めましょう」
「意義なーし」「さんせー」
「あ、いや、おい、お前たち……」
「勝負の方法は至ってシンプル。あちらにまします黒服の方々に、それぞれ1番から5番の札を持っていただいております。どれかお一つをお選びください。明 鐘様はここにおられませんので、残った一つとなりますね。1番と2番、3番と4番の方がそれぞれペアとなっていただきます。5番を選んだ方は、残念ながら お一人で。よろしいですね? それでは、シャッフルターイム」
ちゃららららららー、ららー、ららー。ちゃららららららー、らーらららー。
「ねえ西守歌ちゃん、なんで音楽がクイズダービーなの?」
「雰囲気作りですわ」
「はぁ……」
(ふふ……この勝負いただきましたわ。黒服の方々には、あらかじめ誰が何番の札を持つか言ってあります。他の皆様にはいっけん見分けがつかないでしょう が、わたくしにとっては一目瞭然。明鐘様や笑穂様、美紀様には申し訳ありませんが、涼様とのプラチナチケットは譲れません)
「ストーップ! それでは皆様、お選びください」
「よし、じゃあ俺はこいつだ」
「それではわたくしはこちら」
「んじゃ、あたしはこっちで」
「では、私はここ、だな……」
「よろしいですね? それでは、札をオープン!」
結果発表。
水原涼:1番
守屋美紀:2番
陸奥笑穂:3番
水原明鐘:4番
益田西守歌:5番
「……あら?」
「なんだ、美紀とかよ」
「なーによぅ涼、あたしとじゃ不満?」
「いや、そういうわけじゃ。単にほっとしてるだけだ」
「……私は、水原の妹さんとか」
「ん? 笑りんも、あたしと一緒のほうが良かった?」
「い、いや、これ以上あらぬ誤解を招くのはちょっと」
「ま、いいんじゃないか。明鐘も、お嬢と一緒なら安心だ。(黒服からチケットを受け取って)あ、どうも。おお、新幹線のチケットもついてるんだな。じゃあ明日朝、遅れないように」
「オッケー♪」
「うむ」
「……あの……」
放課後、涼たちのバイト先、Plaviにて。
「……ということで、明日みんなで旅行に行くことになって。ごめん、百合佳さんも誘えればよかったんだけど」
「ううん、気にしないで。涼くんも明鐘ちゃんも、楽しんできてね」
「あ、はい」
「ハルも、そういうことだから。なんなら、またあいつに言って、ペアチケットもらってきてやるから、今度百合佳さんと一緒に」
「かまわん。どうせあんなところ、人ばかり多くて疲れるだけだ。今回のようにタダならまだしも、そんなところに金を払って行く奴の気が知れん」
「……あのー、仮にも今からそこに行く人間に向かって、その言いぐさはないんじゃー」
「気にするな。これは俺個人の意見だ。お前は人の意見にやすやすと左右されるような人間じゃないだろう」
「いや、だから、そういうことを言うのが問題であって」
「……本来なら、連休中は客も多くて、シフト外でも働いてもらいたいところなんだが」
「そ、それじゃー行ってきます! おみやげ楽しみにしててください!!」
からんころんからん。
翌日。新幹線の車内で、席を並べる水原涼、守屋美紀の姿があった。
「やっぱ、さすがグリーン車は快適だよねー。最高ー」
「……明鐘のやつ、大丈夫かな」
「なによ、まだ心配してんの? 大丈夫だって、笑りんも一緒じゃない」
「ああ、それは判ってるんだが。あのバカ、ご丁寧にチケットごとに新幹線の時間まで別々にしやがって。やっぱり、こっちが時間を遅らせて同じ車両に変えてもらったほうがよかったかも……」
「んーもう。あのねー涼。いい加減にしなさいよ。仮にも女の子を前にして、別のコのこと考えてるなんて、男として最低だぞ」
「えっ……あ、いや、ごめん」
「……んっ、あはは。やーだもう。そんな真に受けないでよ。あんたってホント昔から冗談が通じないわねー」
「悪かったな」
一方その頃、涼たちの家にほど近い駅にて。
「あ、笑穂さん」
「あ、涼の妹さん。こんにちは」
「どうもー。今日はよろしくお願いしますー」
「ああ。……ところで妹さん、つかぬことを訊くが」
「なんですか?」
「新幹線って、浮くのかな」
「……はい?」
「いや、最近は技術の進歩もめざましいと聞くからな。あんな大きな車体が、どうやって浮いているのか不思議に思うのだが。それと、たしか自動運転とかいって、運転手もいないという話だが」
「え、えーっと、あのー」
さらにその頃。万博会場にて。
「あーもう! どうしてこうなるんですかっ! わたくし一人だけで来たって、なんにも面白くないじゃありませんのっ! 涼様に取りつけた発信器も、高速移動中には捕捉できませんし。涼様、早く来てくださいませー!!」
長久手会場の中心で愛をさけぶ西守歌であった。
そしてしばらく後。会場に着いた涼と美紀。
「さすがに人が多いわねー。このチケットのおかげで、手荷物検査もナシに、行列も並ばずに入れたけど」
「……あのあからさまなVIP待遇はちょっと恥ずかしかったがな」
「ねえねえ涼、どこから見る? やっぱ一番人気の(大人の事情により自粛)館かな?」
「ああ、そうだな。それにその隣の(大人の事情により自粛)もいいんじゃないか。なんたって(大人の事情により自粛)」
以下数十分、大人の事情により割愛。
「いやー、なかなか面白かったな。ん、もうこんな時間か。ちょっと腹減ったな」
「あ、じゃあ涼。これ食べる?」
「……な、なんだそれは」
「何って、手作り弁当よ」
「お、お前が作ったのか……!!!?」
「なによ、その無駄に多い感嘆符は。あたし以外に誰がいるのよ。いいじゃない、いつも西守歌ちゃんが作ってるの見て、たまには自分で作ってみたくて」
「し、しかし、万博会場内で食中毒患者を出すわけには……」
「なによー! 手作り弁当は持ち込みOKになったでしょ!」
「いや、普通に手荷物検査があったら、絶対に危険物として処理されてたと思う」
「いいからその減らず口、開けたままにしときなさいよー、無理矢理にも流し込んでやるからー」
「う、うぐぐ……やめろ、羽交い締めにしながら食べさすのは」
「ほらほらー、これがタコさんウインナーでしょー、これが卵焼きでしょー、これがそぼろ入りご飯でしょー、よーく味わって食べなさーい」
「あふぃふぁうぇるふぁー(味わえるかー)」
そのときのことを、涼は後日こんなふうに語っている。
「ええ、あれはまさに臨死体験でしたよ。今こうして生きているのが不思議なくらいです。なにしろ喉につめこまれたのは、タコさんウインナーと称する、どう みても干からびたヒトデにしか見えない物体だの、卵焼きと称するモノリスだの、そぼろ入りご飯と称する正露丸入り発泡スチロールでしたからね。そうです、 あれこそ『哀と追憶のあ〜ん』でした……」(プライバシー保護のため音声を変えてあります)
「あーもう! 涼様ったら、美紀様とあんなに楽しそうに! 本来ならば涼様にお弁当を食べさせて差し上げるのは、このわたくしの役目ですのにー!」
涼たちからは数百メートル離れた場所から、無線機でふたりの様子をうかがう超高性能の大和撫子であった。
と、その肩がトントンと叩かれる。
「はい?」
「ちょっと君、こんなとこで何やってんの。その怪しげな機械は何?」
「あ、いえ。お気になさらず」
「いいから、ちょっと来なさい」
「あ〜れ〜、涼様〜」
警備員に連行される西守歌であった。
その頃の笑穂と明鐘。
「なるほど、まだ新幹線は車輪で走っているのか……。ひとつ勉強になった」
「はい、笑穂さん、コーヒー買ってきました」
「ああ、ありがとう」
ぴんぽんぱんぽぽーん。
「あ、もう着くんですかね、早いですね」
『まもなく、大宮です』
「え? 大宮って……あああー! これ上越新幹線だー!」
「……お約束、か……。まさか、私までその餌食にされるとは」
楽しいときはあっという間に過ぎるの格言どおり、日は既に濃尾平野の西に沈みつつあった。その夕焼けを、美紀と涼は観覧車の一室から眺めていた。
「きれいだねー」
「ああ、そうだな」
「なんかさー、考えてみたら、あんたと一日ふたりでいるのって久しぶりよね」
「そういや、そうだな。小学校の頃は、けっこうふたりで遊んだよな」
「中学に入るときにあたしが引っ越して、それから3年。声優目指して養成所に通うことになって、あんたと同じ高校に通うようになったけど、それからはずっと笑りんと合わせて三人だったし、最近じゃ西守歌ちゃんもいるしね」
その言葉に、涼はすこし不機嫌になる。
「あいつの名前を出すなよ。せっかく今日は一日平穏に過ごせたというのに」
「にゃはは、ごめん。でもさ、西守歌ちゃんも、もちろん笑りんも鐘ちゃんも、みんなみんな、あたしの大切な友達だけどさ。もう一度だけ、あんたと……涼と、ふたりっきりの時間を過ごせて嬉しかったな」
「え……」
「いやー、だってさー、あたしも将来売れっ子アイドル声優になるわけでしょ? そうしたらファンから毎日引く手あまたで、とってもあんたなんかといっしょにいられないっていうかさー」
「美紀、お前な……」
冗談めいた口ぶりをしていても、本心は判る。言葉に表れない想い、それが通じ合うのが、十年来の「幼なじみ」の関係性というものだから──。
と。
ひゅうううう。
「ん? 涼、なんか聞こえない?」
「え? 何が……うわっ!」
美紀の言葉に周りを見回した涼は、我が目を疑った。そこには、中空から観覧車めがけて一直線に飛行してくる人物の姿があった。
「まっ、まさか……ひえええぇ!!」
思わず美紀の体を抱え、身をかがめる涼。
「ちょ、ちょっと、涼……」
次の瞬間。
がっしゃーん。
「あいたたた……ん?」
涼が衝撃から覚め、目を開けると、目の前にはひとりの少女の顔があった。
しかも、顔の一部を接触させて。
「んな……」
咄嗟に顔を上げる涼。
「み、美紀、これはその……」
「あ、あんたね……どさくさにまぎれて、何を」
「涼様……? これはわたくし、とんだお邪魔虫でしたかしら……?」
ハッと振り向くと、そこにはここに存在しないはずの、超高性能の大和撫子の姿があった。
「申し遅れました。わたくし、益田西守歌と申します」
「わ、判ってるってのそんなこと! アニメ1話の再現せんでいい! じゃなくて、お、お前がだな、飛び込んできたりするから……」
「「問・答・無・用!!」」
「うぎゃあーっ! や、やめろ、おっ、落ちる落ちる、うわぁあ〜……」
こうして、ゴールデンウィークのささやかな小旅行は幕を閉じていく。
っと。そのころの笑穂と明鐘。
「うわ〜。笑穂さん、万博って、車も走ってるし、普通の街みたいですね」
「うむ……。これのどこが『自然の叡智』だというのか……」
名古屋駅前から、市街地を眺めるふたりであった。(つづく?)
ちゃっちゃらん♪
次回予告
水原涼「とっ、ということで、またまたやってしまいましたΦなるSS第二弾! 皆様、楽しんでいただけたでしょうか!?」守屋美紀「…………」
益田西守歌「…………」
水原涼「なっ、なんだよみんな、黙るなよ! 予告しろよ予告!」
守屋美紀「いいんじゃないのー。あんたひとりでやってなよ、このエロガッパ」
水原明鐘「兄さん……私のいないところで、みーちゃんにそんなことを……非道い」
水原涼「あっ、明鐘ー! 何を言って」
陸奥笑穂「(ポツリと)どうでもいいが、前回に続いて何故私の扱いがこんなに悪いんだ? このSSの作者は私に恨みでもあるのか?」
他全員「…………」
水原涼「さっ、さぁーて次回は! 『Φなる・えむいち。』第3話・『大混乱!? 愛と幻の人格交代!』」
益田西守歌「ああっ、まさに『おれがあいつであいつがおれで』! お約束中のお約束イベントに巻き込まれた、我々の命運やいかに!」
芽生百合佳「ところで、私と春希さんの出番はこれ以上増えないのかしらね?」
水原涼「ゆ、百合佳さん……」
Φなる・えむいち。