2004年01月02日
平成15年(2003年)の小説ベスト10
さて、昨年私が読んだ小説の中で面白かった本をちょっと紹介しましょう。
新刊(平成15年中に発行された本:文庫落ちは除く)に限ります。
10位:森見登美彦『太陽の塔』(新潮社) [amazon]
膨らみきった妄想が京都の街を駆け抜ける。年末に発行された第15回ファンタジーノベル大賞受賞作。
なんか、ほとんど一部の人にしか判らないようなマニアックでローカルな描写が続出ですが、それが大きな魅力。
9位:西尾維新『きみとぼくの壊れた世界』(講談社ノベルス) [bk1] [amazon]
「きみとぼく」本格のすべてを凝縮した一冊。さすがこの人は素晴らしい。私と完璧に同世代であり、ミステリィや他のあらゆるエンタテインメントを浴びて育ったからこそ描ける、感じあえる物語。
ラストが凄すぎる。
8位:おかゆまさき『撲殺天使ドクロちゃん』(電撃文庫) [bk1] [amazon]
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜。
机の引き出しから飛び出してきた可愛い天使は、今日も僕を撲殺します。
説明不要。っていうか無理。続編もあります。ついてこれる人はどうぞ。
7位:京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』(講談社ノベルス) [bk1] [amazon]
妖怪シリーズ最新刊。伯爵に嫁いだものは皆、初夜になくなるーー。
相変わらずの厚さと、いつもながらの長広舌と、あきれるくらいの大胆なネタと、そして切ない人の末路。
胸に残るは一言「凄い!」
6位:谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫) [bk1] [amazon]
第8回スニーカー大賞受賞作。「俺」が高校に入って出会った同級生、涼宮ハルヒは性格以外のすべてが完璧な女。そう、性格以外は。何故かハルヒに振り回された俺は、「SOS団」なる謎の組織に無理やり入らされた。集められた奇矯なメンバ。そして非日常の扉が開く。
その後もひたすらハイスピードで執筆を続ける、ライトノベル、ファンタジィ&SF、そしてミステリィの今後を担うのではと個人的に注目している作家です。
5位:森博嗣『虚空の逆マトリクス』(講談社ノベルス) [bk1] [amazon]
現在私が「先生」と呼ぶ作家は森先生だけです。
「四季」シリーズ連作も継続中ですが、意外に見落とされがちな短篇集。毎回ミステリィの枠を飛び越えた珠玉揃いです。
イチ押しは「ゲームの国(リリおばさんの事件簿1)」。
4位:浦賀和宏『透明人間』(講談社ノベルス) [bk1] [amazon]
もっとも「メフィスト賞作家らしい」とも評される浦賀氏。デビューが早かったせいか、最近のいわゆる「ゼロ年代の波」の論評から漏れがちですが、やはりこの方の才能は突出しています。
各作品を越えた連鎖が特殊な世界を形成する「安藤君シリーズ」最新作にして、シリーズ過去作とはまた違った味わいを感じる傑作。
3位:滝本竜彦『超人計画』(角川書店) [bk1] [amazon]
これは小説ではなく、エッセイである。しかし、凡百の小説より痛快だ。著者自らが、引きこもりからの脱却を目指すべく、脳内彼女・レイとともに超人ロードを歩む。
個人的に、もっともっと売れてほしい作家。
2位:西尾維新『ヒトクイマジカル』(講談社ノベルス) [bk1] [amazon]
戯言シリーズ最新作。「死なない研究」のモニタに誘われた戯言遣い・いーちゃん(いっきー)。姫ちゃんをつれて彼は研究所へ。そこで彼らを待ち受ける運命とは。
リバーシブル表紙に包まれた、その中身100%すべてが最高にして最上。
1位:森博嗣『ZOKU』(光文社) [bk1] [amazon]
世界に暗躍する謎の悪戯組織「ZOKU」、それに対する「TAI」。複雑に入りくんだ現代社会に鋭いメスを入れ、さまざまな謎や疑問を徹底的に究明する。著者ならではの視点が楽しい、アンチっぷり炸裂な極上エンタテインメント。
とりあえず永良野乃萌え〜とか言ってみるテスト。
以上です。基本的にハードカバーをあまり読まないこともあり、非常に偏った、嗜好&指向のよくわかる作品群となっております。
2004年01月04日
年末年始に読んだ本まとめ
ここでは、年末年始に読んだ本で面白かったものの感想をまとめてみます。
すっかり安定感の出てきたシリーズ。今回は短篇集。
ラストの「孤島症候群」は新本格ミステリィの一群に加えても良いくらいの作品。ネタがなかなかにマニアック。ラストでもうすこしひっくり返してほしかったところですが、まあ良いか。
しかしハルヒのキャラ造形は毎回好きだなぁ。 いとうのいぢさんのイラストも素敵だし。第1話ではもうすこし(以下略)
第二回SD文庫新人賞最終候補作。
なかなか面白かったです。微妙にマニアックなネタが入ってたりして(それ以外のなにかとか)。坂崎嘉穂の「思われ」は後半設定を忘れたのか、直されたのか、全然出てこなかったけれど。
そんな皮相的なことだけでなく、魔法とコンピュータという設定をなかなかうまく料理していたと思います。
装丁があまりに見事で、思わず買ってしまった作品。なんか、はやみねさん最近やたら本出してますね。
そして中身も素晴らしい。 貧乏大学生の「荘もの」というジャンルを捏造してしまいたくなるほど、こういう設定は好き。マンガでも即座に10作品くらい挙げられますが……。
主人公の井上快人、タイトルの「先輩」をさしおいて表紙アップの春奈(主人公の幼なじみ)も素敵。
オカルトじみた事件に、論理的決着をつける連作短篇集。テンポの良い筆運びの中に、各キャラクタの立ち位置、心境が見事にすくい上げられています。逸品なのは、この作者にしては珍しく悪意の存在を明確に描きあげた「第二話 地縛霊」。
昨年末の各種ミステリランキングで評価が高かった『葉桜の季節に君を思うということ』はまだ未読なんですが。
……凄い。この人の作品は(私が読んだ限り)どれも非常に凝っている。しかもそれを一瞥して感じさせないくらい洗練されている。「ROMMY」という人気歌手にまつわる殺人事件を追ったストーリィはスピーディで心地良い。しかもラストで驚愕。めちゃくちゃ「本格」です。毎回、感想を書きにくい作品群だなぁと思います。
2004年01月14日
トリビアの泉と唐沢俊一「トンデモ一行知識の逆襲」
12日に書いたとおり、唐沢さんの『トンデモ一行知識の逆襲 』という本を購入しました。ひととおり読んだので、その感想をまとめつつ、補足を。
読めば判ることですが、この本とその正編である『トンデモ一行知識の世界 』(ともにちくま文庫/単行本は大和書房)こそが、フジテレビ系「トリビアの泉」の元本です。もともと唐沢さんは知っていても何の役にも立たない短い知識を「一行知識」と総称して、その普及に努めていました。それがテレビ向けにプレゼンテーションされたのが「トリビアの泉」である、という認識でたぶんよいと思います。番組の最後には唐沢さんの名前がスーパバイザとしてテロップされています。
(30分時代、はじめて観たときに名前を見つけたときは驚きとともに、番組のマニアックな趣向に思わず納得)
ただ、文庫版あとがきにもあるとおり、トリビアと一行知識の一行知識とトリビアの違いは事実確認があるかどうか。ある意味、嘘でも良いという居直りは唐沢さんらしくて好きです。
今回の文庫版では、あとがきや山田五郎氏の解説などから、トリビアに対する唐沢さんのアンビバレントな想いも垣間見られますが、すでに「トリビア」と「一行知識」はある意味別物として、それぞれの道を歩んでいっている、と考えたほうが良いかもしれません(すくなくとも「脳天気本」と「トンデモ本」くらいは違うと思う)。私はどちらも好きですね。唐沢さんの、過剰なまでにマニアックな語り口も、最近VTRに異様に凝っているトリビアの泉も。すくなくとも、どちらにも「無駄なことをあくまで追求する」という思想が見られるので。巷間溢れかえる類似本・便乗本の大半とは、やはりそこで一線を画すると思います。
それにしても、文中の カルピスウォータの逸話は素晴らしい。この話に出てきたのが噂のお祖母様ですかね。
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2004年01月15日
上遠野浩平「殺竜事件」(講談社ノベルス)感想
いわゆる「事件シリーズ」の一作目。ブギーポップシリーズや、徳間デュアル文庫のシリーズも好きですが、今回このシリーズを初めて読んでみました。
思った以上に面白かったです。魔法が存在する世界での戦地調停士・ED(エド)と、リスカッセ大尉、ヒースロゥ少佐(名前が憶えられませんが)とのやり取りが楽しい。出てくるサブキャラもそれぞれきっちり描かれているのもこの方らしいですね。絶大な力を誇る竜が何故、どうやって殺されたのかという謎を追い求めるミステリィ形式ではありますが、謎解きの道程がそれ以上に魅力的な描写でした。
系譜的な意義で言うと、やはり西尾維新「戯言シリーズ」に影響を与えたとおぼしき作品ですね。
2004年01月18日
清涼院流水「彩紋家事件 前編」(講談社ノベルス)感想
清涼院流水『彩紋家事件 前編 極上マジックサーカス』(講談社ノベルス)ようやく読了。
サーカス公演のところを実際に、ノンストップでじっくり読む時間を確保したかったので、やたら時間がかかりました。
極上の「奇術」が次々に繰りだされる。今回はちゃんと最後にすべて解かれるのでしょうが、シーンを思い描くだけでも楽しい。
しかし。欲張って言えば、まだまだ。まだ私の期待を超えていません(まだ事件が本格的に始まってないから当然といえば当然ですが)。後編『下克上マスターピース』でどんな展開を見せるのか、楽しみ。
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2004年02月04日
北村薫「月の砂漠をさばさばと」(新潮文庫) 感想
北村さんの既文庫化作品はほとんど読んでます。独特のやわらかな文章でつづられる世界が大好きです。
おーなり由子さんの絵とともに語られる、童話風の12章。作家のお母さんとさきちゃんの日常。思わぬところでジャブが飛んできたこともあり(ほっちゃん先生ー!!)、めっちゃ萌えました。
北村さんの作品に萌えるなんて、邪道だと思われるかもしれませんが、私はあえて、これこそ本道だと思うのです。ここにあるのは、いっそストイックなまでの、原始の萌えの世界。(あえて時雨沢恵一氏の言葉を剽窃しますが)世界は美しくなんかないし、子どもだって純真なだけではない。けれど、それゆえに、とても美しい。
それが、けして脆く不安定なままではなく、その先の強さまでも描ききれるところが、北村さんが唯一にして無二なる所以だと思います。そうして体現された世界に、そこに確固として立っているキャラに、萌えを感じるのは、けっして故ないことではないと、私としては思います。
……なんて、自己保身気味の牽強付会理論を繰ってみたところで、単にお前の性癖だと言われればそれまでですが。
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2004年02月11日
西尾維新「零崎双識の人間試験」(講談社ノベルス)感想
ファウストは今日買いにいきます。まずは西尾氏「零崎双識の人間試験」感想を。
無桐伊織は平凡な女子高生、十七歳。だったはずが、ある日突然とんでもない事件に巻き込まれる。否、巻き込まれるといった程度ではない。彼女の存在はまさに事件の中心であり、中核であり、中枢であった。零崎一賊。「殺し名」七名。どうしようもないモノ。自殺志願。死色の真紅。
死、死、死。「死ぬとは、どういうことですか?」「きみはどうやら、『合格』のようだね」「あなたはーー間違っています」「……お兄ちゃん」
彼女にとってひとつの世界が終わり、そしてーー「零崎を、始めよう」
あー相変わらず形容の仕様もないくらい徹底的に絶対的に圧倒的に素晴らしい。ありえないくらいに荒唐無稽で、世界が違って、でもだからこそきわめて現実的。皮相な世相を一掃するくらい、悲愴で颯爽。
また、ウェブ連載時にも唸らされた(うなー)二重三重の罠。それが今回、ノベルスにまとまったことでさらに増幅されています。とくに、加筆部分によって、「戯言シリーズ」正編(とくに「ヒトクイマジカル」)との位置関係が明瞭になり、ぴったり「嵌った」という感じです。そしてこれが、「ネコソギラジカル」にもつながっていき、遠くない大団円に収束していくのでしょう。期待は高まるばかり。
それにしても、西尾氏の女の子キャラ造形は毎回良いですねー。誰かひとり選べないくらいみんな素敵。葵井巫女子(みたいなっ!)、萩原子荻(辞書に替わってお子荻ちゃん)、紫木一姫(ですですよ)、とかとか。でもみんな……うー……うなー。
あ、といっても時宮時計はさすがにダメですよ?(ネタばれかな)
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2004年02月14日
「ファウスト」Vol.2(講談社)感想
ようやくファウスト読了。えーと、「彩紋家事件 後編」がさっぱり読めてないんですが、休み中には読みきりたいところ。とりあえず以下ファウスト感想。
うーんと……言いたいことはいろいろあるんですけど……乙一の作品まともに読んだことないので、判断しかねるところもあるんですが、微妙にメタフィクショナルな意味が不明。
滝本竜彦氏の文章はやっぱり楽しい。地の文も会話も。なんていうか、こう、僕の心のやらかい場所を針でちくちくされるような感じ、と言ったら判るでしょうか(わかんねぇよ)。今回、あからさまともいえるミステリィ的趣向、滝本さんらしく決まってたと思います。
私も西尾氏からのプレゼント欲しいなぁ……(佐藤友哉氏に対する挑発ともとれる感想)。
二話目、三話目のラストの反転が見事。
すっかり舞城王太郎な作品に仕上がってるな……。
っていうか『九十九十九』未読なので(そのうえ近いうちに読むつもりなので)読めません。ちなみにしょうも無い話ですがちょっと前のウェブ日記での話題については明らかに唐沢俊一さんの意見が正しいと思う。
なんか感想不能だけど面白い。ってかセクス・アリス萌え。
これぞ流水大説か。マジオとウゼ美のアニメって……。はまるなぁこの人の文章。
いやぁ、面白いなぁ。どんどん文体が変わっていくのかこの人。続きはどうなるのでしょう。
抜群。もう完璧すぎて言葉も出ない。伏線の張り方から次回への続き方からキャラ造形から最後の一行まで絶妙。
ところでなんか今回、乙一・滝本竜彦「いじめ」、佐藤友哉・西尾維新「誘拐」と、題材が似てるのが並んでいるのはきっと意図的なんでしょうけど、個人的にはどっちも後者のほうが面白い。これも戦略だとしたらかなり恐ろしい太田編集長。
アニメ化してください。
洋楽に興味ない私ですが、上遠野さん的語り口が好き。
いやー楽しい。ダメすぎー。なんか語彙が尽きてきたぞ私。
……なにこれ? 誰? いや、面白いですけど。
リカヴィネかよ! わたおにかよ! この方の洞察は毎度ながら的確。もっとページを増やしてほしいところ。
ファウスト賞応募作リスト&コメントは20日ごろウェブ発表とのこと。
Vol.1に増して凄い。今度単行本を捜してみよう。
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2004年02月22日
清涼院流水「彩紋家事件 後編 下克上マスターピース」(講談社ノベルス)感想
やっと読めました。読もうと思えば時間の確保ぐらいできるので、忙しいなんてのは理由にならないわけですが、つまるところ現状では小説(大説)よりアニメ(やネット)のほうに比重がかかっているということですね。
感想……。いつもながらの大技炸裂ということで、ネタばれをする気はこれっぽっちもありませんし、それについてはあまり言うこともないのですが。作品なんだからー、史実とか現実との齟齬をいっても仕方ないしー。これが講談社じゃなく幻冬舎だったらどうだったろう、とは思いますけどね。
とりあえず、物語としての構成の妙にうならされる(うなー)。ラストのジェットコースタ並の加速度は見事。
あと、細やかな小ネタがちりばめられてあって楽しいですね。有里匠幻って!
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2004年02月26日
トマス・フィンク、ヨン・マオ「ネクタイの数学」(新潮OH!文庫)感想
来月は卒業式とか学会とかがあって、入学式以来ひさびさにスーツを着るので、ネクタイの結び方を憶えないと……ということでGoogle 検索してみたら、「ネクタイの数学」という本がひっかかってきました。いわく、「男性の首まわりに一枚の布を結ぶ方法は、数学の理論上85通りあり、これ以上でもこれ以下でもない」とのこと。なんか面白そうなので買ってみました。
ランダムウォーク理論で漸化式を解いて考えるというのもなかなかにマニアックですが、85種類の結び方を図でひたすら詳説しているのが凄い。さらにその中から13の「美的ノット」を選び出し、その結果が口絵に出てますが、はっきりいってほとんど違いが判らん(笑)。ネクタイの装い方という実用的な話題を突き詰めて、微妙に脳天気本になっている楽しい本。
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2004年03月02日
伊坂幸太郎「重力ピエロ」(新潮社)感想
読者にとって、ある一人の作家との最初の出逢いは、一生に一度、たった一冊の本に限られる。まさに一期一会、それは実際の人との出逢いと同じーーあるいは、それ以上にーー貴重なもの。それが幸運なものであれば、またその作家の本を読みたいと思い、あるいはさらなる感動を得られることになるだろう。だが、一度出逢った後の作家の作品は、たとえそれがどれだけ素晴らしいものであれ、「この作家が書いたのだから」という、ある種の色眼鏡を持って読まれることを避けられない。本当の意味で、まっさらな状態「タブラ・ラサ」で作品を捉えられるのは、それゆえ、ひとりの作家につき一度きりなのかもしれないーー。
そして、今日もまた。
私にとって、一人の作家との出逢いがあった。
幸運なことに、それは、一生のうちでも数度もないほどの「良き出逢い」であった。
伊坂幸太郎「重力ピエロ」。
この作家の名前、この作品の名前が、今日この日から、私にとって特別なものとなった。
ーーということでもう文句のつけようもない素晴らしい作品でした。
「私」にとって大切で特別な弟。彼ら「最高の兄弟」をめぐり巻き起こる事件。
初読でここまで惹き込まれたのは、森博嗣先生、西尾維新、滝本竜彦氏以来。これらのお三方のときもそうでしたが、私が小説を読むとき評価の最大の基準になる「文体」が非常に私の趣味にマッチしています。流麗で適度に現代風、しかも精緻で完成されている。なにげない一文一文が(地の文、会話文問わず)丁寧で独特。もう思わず引用したくなる名台詞ばかりなのですが、これはネタばれとかそういう以前に実際に作品の中で味わわないといけないような気がするので、ひとつだけで我慢。
「これは神様の在り方としては、なかなか正しい」(69ページ)
何気なくも絶妙に素晴らしい。
また、これは作品の中身に関係ないじゃないかと思われるかもしれませんが、私にとってはけっこう重要な要素が、装丁とタイトル。もちろん作家ひとりだけで決まるわけではないものですが、なんというか、出版社全体としての気合の入り方が表れているような気がして見逃せない。これらの点もこの作品は満点。タイトルでは森先生が一番抜群のセンスだと思っていましたが、伊坂幸太郎氏も(この作品に限らず)素晴らしいと思います。この作品を選んだのも、「重力ピエロ」というタイトルの妙に、以前から気になっていたのです。櫃内様刻じゃないですが、タイトルのセンスはやはり文章の巧さの必要条件(NOT十分条件)。
装丁も鈴木成一デザイン室や京極夏彦withFiscoにも引けをとらない新潮社装丁室。ところで○○賞(候補)作界隈の装丁は個人的に気に入らない気がしないでもない(言葉を濁すな)。
ということで、これからも伊坂幸太郎氏、大注目。
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2004年03月03日
渡瀬草一郎「空ノ鐘の響く惑星で」2(電撃文庫)感想
個人的に今月はライトノベル強化月間。やっぱり電撃文庫が一番好きで、今月も買いたいシリーズが二作品ほどあるのですが、入手できるのは来週末ぐらいかな。とりあえず先月のこの作品の感想を。
渡瀬さんは、電撃の中ではいまのところ一番文体の好きな作家(上遠野さんは別格として)。いわゆる正統派現代ファンタジィ系の「パラサイトムーン」が好きで、まあイラストに負けてないなと(はぎやまさかげさんも別の意味で好きだったり)。この「空ノ鐘の響く惑星で」は完全に異世界もので、私としてはまずキャラの名前とかがカタカナだと憶えられないのですが、それでもなかなか素晴らしい。相変わらず、巨きな物語の断章といった感じで一作品だけで完結しないですが、そこはやはり話の流れとしての緩急はしっかりしています。
異世界からの「来訪者」の手による、王と皇太子の突然の死。その後のアルセイフ王国の王位継承をめぐる政局と、裏で暗躍する有象無象の物語。
ヴィジュアル的に映えそうな戦闘シーンをいっさい描かず、個々人の思い描く大局的な戦略を掘り下げていって話を紡いでいく手法は、実は電撃らしくなくて好きな気もします。いや、言えるほど電撃作品読んでないので(50冊ぐらい?)間違った認識かもしれませんが。
キャラ的にはラシアンの立ち位置が好き。策士ーーというのとも違う。「彼は孤高の官僚なのだ」という197ページの一文がすべてを物語っていると思います。中立を装うのは簡単でも、実際の内実を伴わなければ空虚な繰り言に過ぎない。作品世界を離れて一般論としても、理想的な存在。
2004年03月04日
大塚英志「『おたく』の精神史 一九八〇年代論」(講談社現代新書)感想
私の思想的立場というものがもしあるとすれば、それははっきりいって大塚英志さんとはかなり離れていることは間違いないでしょう。戦後民主主義なんて欠片も信じていないですしね。まあ私がまさにこの本で主題となっている一九八〇年代生まれで、この時代の空気を肌で感じるほど自我が確立していなかったということもあるのでしょうが。とはいえ、基本的に本を読むときは、なるべく理解できるところをさがすというスタンスに立っているので、批判しようという気はありません。なればこそ、東浩紀さんのメルマガ「波状言論」も購読すれば、同時に唐沢俊一さんのファンであったりするわけで。
この本は、自己言及もされているとおり、まさに大塚さん自身が感じた「一九八〇年代」という時代、そして以後の日本の歩みに見るその残滓を、極私的立場から語ったもの。だからやはり、いわゆる「ゼロの波」に近い私のような世代にとっては、理解しがたいところもありつつ、それはそれで真実の一部なんだと思います。個々の事例に、歴史的意味を付与しようとする試みは、牽強付会でないかぎり決して無為なものではないと思います。新世紀エヴァンゲリオンのラストの解釈あたりは白眉。
2004年03月07日
森博嗣「四季」(講談社)感想
「四季が駆け抜けた百年間について」というタイトルでも良かったかと言ってみる>即却下。
木曜の夜にbk1で注文して、土曜の朝9時に配達されました。早っ!(さすがに分厚いのでメール便でなく宅急便でした)。
やはり「春」からじっくり読みたいと思ったので、二日間かけて読了。その判断は正しかったと思います。
とにかく、素晴らしい。言語化がままならないほど、戯言の介在する余地もなく、至高にして至高。「秋」までで充分以上に想像(期待)を凌駕していたのに、このうえこう展開するとは……。まさに予想外。
手が届かないところにある存在を、それでも眺望できる、視認できるように語るというのは、まさに超絶技巧。森先生にしか書けえない名作だと思いました。
2004年03月08日
在原竹広「桜色BUMP シンメトリーの獣」(電撃文庫)感想
「新感覚ミステリー」とカバー見返しには銘打たれております。ただし、今までの経験則から、こういう惹句は(とくにライトノベルでは)あまり信用しないほうが良いと思います。お互いのために……。
学園ものとしての導入部の雰囲気はなかなか好き。ラストあたりの処理の仕方も、個々人の思いをちゃんと回収していて良し。あえて言うなら、中盤部が、あくまで「(本格?)ミステリ」として見るならば、という但し書きですが、謎解き主体の本格形式に則っていない側面があって(具体的にはネタばれのため言えませんが)驚きが少ない、というのが弱点。ただ、ためにする議論のような気もするのであまり気にはしません。そうである以上、ミステリ形式からの逸脱も起こりえないわけで。
なにが言いたいのか? いや、単に「四季」を読んだあとだから自分の中で「ミステリィ的なもの」に対する評価基準がおそろしく高くなっているだけです。
ミステリィじゃないと思って読めば……とかいう言い方も、それによって補集合を想定しているわけだから、やはり的外れ。純粋に「面白いか面白くないか」で言えば、確実に面白い。それだけでいい気もします。
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2004年03月13日
斎藤環「戦闘美少女の精神分析」(太田出版)感想
斎藤環にまで手を出してみた。
精神科医としての立場から、オタク、あるいは萌えを論じた本。うーん、まあ、いまいちピンとこないところもあるけど、大筋では的を外してない気がします。
このサイトは「萌えとマンガとミステリィ」をサブタイトルとしてますけど、これまできっちりと「萌えとは何か」を定義してきませんでした。はっきりいってあまり定義する必要もないとは思うのですが、斎藤さんがこの本の53ページあたりで書いていること((福)さんも引用されてましたけど)は、けだし慧眼かと。私なりにそれを消化すれば、「作品、あるいは敷衍して現実に登場するキャラクタ、生物、無生物、シチュエーションなどに一定以上の偏愛の情を注ぐことで、その対象物が本来帰属する物語世界における文脈をいったん切り離した上で、自分なりに構築された意味世界に配置しなおすことで、充足感を得る感情のこと」といったところでしょうか。つまり、与えられた「物語=世界」に安住せず、それを自分の中に取り込むことができる才覚が必要だと思うのです。
ほとんどのオタクが実際の幼女に興味がない、というくだりは、ほんとかなー? と思ってしまったりするのですが(笑)、まあ、現実の中にさらに仕組まれた虚構を見出しているという解釈も成り立つのでしょう。たとえば、私自身よく「今日の萌えシチュエーション」でネコとかハトといった小動物をネタにするのですが(あくまで「小動物」ですよ! 桜くんとは違いますよ!)、現実にネコとかを見て萌え萌えしてるのは、明らかに虚構作品で描かれたイメージを投影しているわけです。萌え開眼以前はむしろネコとか嫌いでしたからね。
ともかく、現実というものすら共同幻想に過ぎないというのは、実際頷ける話です。それを了解事項として、描かれた物語を(あるいは、自ら紡いだ物語を)現実と等価のものとして対置できる、といういわゆる多重見当識を持ちうる人間こそがオタクなのだというわけで。そういう観点からすれば、一面では人生に余裕を持てるのかもしれません。いや、別に特権階級化するわけじゃないんですけど、最近まわりの人々を見ていて、つくづく思うわけで。現状に不平不満を言う人って、けっきょく現実に期待しすぎているような気が。オタクもひきこもりも、けっして逃避ではない、というのが私の観点。
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2004年03月15日
谷川流「学校を出よう!(4)」(電撃文庫)
ひとりの少女の逃避行。それを追う、第一〜第三EMP学園の能力者たち。つかの間の紀行の果てに、たどりつく結末とは。
今回もなかなか面白かった。やはりこちらはシリーズを視野に入れた世界の構築の仕方がされているようで、良い方向性かと。
あと、谷川流の文章はやはりセンテンスごとの面白さが重要。どうってことのない道行を楽しく描くというのは、西尾維新がその先鋭だと思いますが、好き好き。
しかしラストの宮野の物言いには異論が。というか数学的には明らかに間違ってます。詳しくは専門外ですが、可算無限という概念があって、数が数えられることと無限とは関係が無い。あと、1と2の間に無限の数があるというのは、有理数の稠密性といいますけどさらに別の話。なんか毎回この人の作品ではツッコミどころがあるなぁ。
さらに蛇足。誤植なのかネタなのか知りませんが、「鴉の濡れ場」ってあーた。
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2004年03月16日
秋山瑞人「猫の地球儀 焔の章」(電撃文庫)感想
「イリヤの空、UFOの夏」で秋山瑞人さんを知りました。あのシリーズでは、1巻での爽快な世界の展開がファーストインプレッションとして強く印象に残りました。もちろん最終話(4巻)も非常に美しい終わり方で、いいなぁと思い、過去作も読むことにしました。
しかし、これは不思議な作品。おそらくは未来の、猫とロボットの栄えし世界を描いているのですが、そういう世界観を既定のものとして、あえて説明をせずにどんどん描写を進めていくという手法は、「イリヤ」にも通じているような気も。もともとノベライズを手がけていた方だからでしょうか。擬人化されてはいても、主体は猫(とロボット)なので、視覚化が難しいはずなのですが、それでもなんとなく雰囲気が出る書き込み方になっていると思います。そういう意味で、非常に電撃らしい、ライトノベルらしいと言えるのかも。
最終的な評価は後編を読んでから下します。「セカイ系」についての私見なども、気が向いたらその折に。
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2004年03月17日
木村航「ぺとぺとさん」(ファミ通文庫)感想
たまたま、今日(平成16年3月17日)の読売新聞夕刊「本よみうり堂」で、ライトノベルについての評論記事があり、この作品にも触れられていました(あと、「撲殺天使ドクロちゃん」も……)。相変わらずやってくれるなぁ読売。
記事では、イラストで「その筋の人の萌え心を狙い撃ち」した、とありましたが、まあもちろんそりゃそーでしょう。この記事を読む前はこのエントリを「かわいいなあ、もう!」で始めようかと思ってたくらいですから(本気)。でも、この作品はそれだけじゃない。まいじゃー推進委員会!(極楽トンボさん)で紹介されてたので読んだのですが、私にとっても期待を裏切られませんでした。
「ぺと子」をはじめとする奇妙な(そしてかわいい)妖怪と人間の通う中学のひとこまを描くほのぼの学園もの、という惹句はたしかに間違っていないでしょう。前半からやたらに大量の萌えキャラが投入され、典型的なマンガ的展開で進みながら、ラストシーンは非常に鮮烈。たんなる萌えぇ〜だけを望んでいてももちろんOK、でもきっとそれ以上の「物語」がここにある。
「妖怪ぺとぺとさんはなー、エロエロ妖怪やねん」
読み終わるころには、このセリフがたぶんまた違った意味で聞こえてくるはず。
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#ところで、こぬりちゃんほしいなぁ(締めが台無し)。
2004年03月18日
藤山哲人「萌える聖地アキバ」(毎日コミュニケーションズ)感想
う〜んと、なんか、最近どうかしてますよ?(誰に向けて言ってるのかな?)
実は私、秋葉原なんて(なんて?)行ったことないのです。東京はいつも急ぎ足、いい奴ぶるわりに薄情や、なんて申しまして(マニアックだなぁ〜)、東京に足が向かない。そんな人間がこんな本買ってどうするのだと思いつつ、これも資料資料。
たとえば森川嘉一郎「趣都の誕生 萌える都市アキハバラ」なんかと比べてみたならば、この本はより実践的な感じ。それが良いのか悪いのか、使えるのか使えないのか知りませんが。具体的な記述に思わず笑いがこみあげるあたり、私もすっかり同類ですか? なんでもいいや……。
ところで、でじこや美虎をへんなキャラクタって言うのはやめてくださいな。
まとまらない文章でごめんなさい。ぶっちゃけ、こういう本って小説と違って突き放して評論しにくいんです。テーマがテーマですし(言い訳)。
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2004年03月21日
おかゆまさき「撲殺天使ドクロちゃん(3)」(電撃文庫)感想
第1話の段階で、「もう三巻目だしそろそろ落ち着いてきたかな」と思いきや、第2話で撃沈。そのまま潜水病。
「わが国の……わが国の誇る不沈空母がッ……!!」
まったくなんなんだろうこの作品は。イラストをはるかに凌駕する文章の破壊力。そういう系のフレーズをさりげなくソーニューする技術がますます磨かれて、世界一ィィィーー!! になってますか。あう。これ以上論評するとアトには引けなくなりそうなのでもうやめます。
最後にひとつだけ。この人の、独特のカタカナの使い方がその威力を増幅させていると見た。
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2004年03月23日
大森望・豊崎由美「文学賞メッタ斬り!」(PARCO出版)感想
本の存在を知ったのも、注文したのも、すべてネット上で。
これはめっちゃ面白い。現在日本に数多ある文学賞(新人賞含む)をほぼ網羅し、その受賞傾向・過程・受賞作の評価を、裏事情も交えながら対談(放談)するというもの。さすがにキツめな発言も多く、異論もないわけではないですが、言いっぷりが見事。「文学賞は、作家のためにある」と言い切るからこその、作品(作家)への愛を感じる本です。ROUND4の芥川賞・直木賞中心の選評へのツッコミなんかは一番笑いました。ROUND13の文学賞甲子園も、こういうノリはけっこう好き。
ミステリ系、ファンタジィ系、種々取り混ぜて、それなりに最近の話題作を読んでいる(あるいはすくなくとも気にかけている)人なら楽しめること請け合い。私としても、新作(あるいは新人作家)を網羅読みしているわけではないので、たまたま読んで面白かった作品に似た系統のものを捜すのに、賞ごとの傾向の分類とかは役立ちそうですね。とりあえず森見登美彦「太陽の塔」と川上亮「ラヴ☆アタック!」を読み比べてみようかな。
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2004年03月25日
恩田陸「ロミオとロミオは永遠に」(早川書房)感想
ハヤカワSFシリーズJコレクションの一冊。
注:以下、ネタばれはいたしませんが、まっさらな状態で本作を読みたい場合、興をそがれる可能性があります。ご注意ください。
近未来の「日本」、誰もが夢見る大東京学園に入学した、アキラとシゲル。しかして、その内実はあまりに壮絶、凄惨なものだった。そこにあるのは、たったひとりのエリート「卒業総代」を目指すためだけの競争。あるいは、学園からの「脱走」ーー。
一見、恩田陸作品としては異質な異世界SFもの。しかし、それでもなお、苛烈な描写の中に、底流として(まさに、作中にある「アングラ」のごとく)あるのは、純度100%の恩田陸ノスタルジィ。想い出は美化されるのみ、とよく言われますが、それは逆に言えば、美化されなければ耐えられないほど、本当は辛くて儚いものだということ。だからこそ、極端なまでに厳しい世界を構築する必要があったのでしょう。未来の世界から逆照射される、20世紀の記憶。たんなる懐古趣味のドキュメンタリィとは一線を画す作品。
私が恩田陸さんの作品を読み始めたのは大学に入ってからで、特有の「青春」時代を過ぎていた(それがあったかどうかはさておいて)ため、目線を主人公と合わせることはなかなか難しいのですが、この作品について言えば、舞台が現代でないためにその問題が解消されていて、たとえば「ネバーランド」とかよりも評価できるものでした。
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2004年04月01日
川上亮「ラヴ・アタック!」(角川書店)
「文学賞メッタ斬り!」で紹介されていた、角川Next賞受賞作。
あーなるほどー。こういう作品なのか……。いかな私でも、これほどまで「萌え」というフレーズが頻出する小説は初めて。っていうか引くなぁ。
えっと、なんか「萌えとは何か」についてもうすこし補足することを期待されているようですが、私としては個々人のフィーリングだとしか言えません。狭義には架空のキャラクタ(多くは少女)を対象としているのですが、最近は平気で無生物にも使いますからね。この作品ではおそらくもっとも広義の使われ方をしています。オタクな男子大学生たちが主人公とはいっても、コアな意味でのアニメオタクとかはいませんし。現実の女性を萌え対象にはしないという意見もあるのですが(「萌える聖地アキバ」)、ある意味空想のシチュエーションを思い描いているのだから許容範囲かな。許容したからどうというわけでもないのですが。NHKじゃないので(ひきこもり協会にあらず)。
萌えについて理解するための手引き。
作品の感想に戻って。
たしかに森見登美彦「太陽の塔」[amazon]に比されていたのがよくわかりました。違いは、「動と静」。「太陽の塔」はラストに象徴されるように非常に静謐な作品であるのに対し、この「ラヴ・アタック!」は非常に動的。出会い系サイトを題材にしつつ、現実世界で各人物が動く描写が丹念に描かれています。一人称視点か、他人称複数視点かという違いも反映されていると思います。これが校風の違いなのかな、とも思います(笑)。
擦れたミステリィ読みにとっては、小節のタイトルづけで、だいたいラストのネタが予測できてしまうのですが、なかなかエキサイティングで面白かったです。たしかに完成度は高く、落胆させられることはないと思います。
まあ、この本と、滝本竜彦、森見登美彦、あるいは佐藤友哉あたりをひととおり読んで、自分に一番あったテイストの作品を見つけるのも一興かと。
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2004年04月03日
清涼院流水「キャラねっと 愛$探偵の事件簿」(角川書店)感想
本当に、圧倒的なまでの世界の構築力だと、流水大説を読むたびに思います。
日本だけでなく、世界中の「ティーンエイジャー」が集い、そいぞれがひとつの「キャラ」になりきって電脳空間上の「学コウ」に通うオンラインゲーム、「キャラねっと」ーー。そこで出逢った池丸大王と、神宮べる。ネット上で起こるさまざまな事件に、彼らは立ち向かう。
きわめてライトノベル的な骨格、キャラクター小説の色合いの濃い作品でありながら、やはり完全たる流水大説の世界がここにある。流水大説はミステリよりもライトノベルに近いとよく言われるようですけど、違いはやはり圧倒的な突き抜け感。凡百の作品なら、小手先の異世界ファンタジィの手法でかりそめの世界観を見せつけるところが、流水大説は違う。そのほとんどが極めて現実世界に肉薄した世界を描きながら(たとえばこの作品にも、あるいは「トップラン&ランド」シリーズに顕著なように、現実の出来事を仔細に描写していく手法は、語義的に正しく確信犯的なもの)、結果として顕在する世界はあまりにも異形なものになっている。それこそが、現実よりもリアルな世界を創り出し、あるいは文庫版「カーニバル」のように現実までも改変してしまう流水マジック。「人間が描けていない」「キャラがあり得ない」などという批判はまったく正鵠を射ていない。ネットという仮想世界で、あるいは作品の中の現実世界で、キャラは確かに「翔けて」いる。そして清涼なる文ショウの美技を、ご堪能あれ。
うわははは。完全なる流水肯定派として褒めまくってしまいました。正直、JDCシリーズよりもこういった作品の方が好み。「めいきゃっぴキャラねっと」なんか木村彰一シリーズを彷彿とさせますね。(注:木村彰一シリーズーー幻冬舎ノベルス版「エル」「ユウ」、幻冬舎文庫版「全日本じゃんけんトーナメント」「億千万の人間スキャンダル」。とくに後者はまったく違う結末が楽しめます)
3月発行なので「このライトノベルがすごい!」の投票対象にならないのが惜しまれます。
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2004年04月10日
沖田雅「先輩とぼく」(電撃文庫)感想
第10回電撃ゲーム小説大賞銀賞受賞作。
あぁ、やっぱり私はこういう系統の作品が好きみたいですね。
宇宙人。UFO。幽体離脱。都市伝説。戦隊ヒーロー。眼鏡っ娘(図書委員仕様)。おれがあいつであいつがおれで。
ありったけの「お約束」的コードを詰め込んで、それぞれが非常に類型的な描き方をしていて、なおかつ作品全体として水準以上に到達している。特異な世界観、と言えるほどそれは確固としたものではなく、あからさまに非日常なくせに、どことなくのほほんとした日常がそこにある。こういう作品では珍しいラストの処理がなされている(具体的にはネタばれなので割愛)のも、その表れかもしれません。いや、単に続編を意識しただけかもしれませんが。個人的にはこれで終わっても良いと思うんですけどね。ライトノベル系って、続編が出ることが多いというのが、作品によってはデメリット(谷川流「涼宮ハルヒの憂鬱」とかもそんな感じ)。
こういう世界が好きな人にはおそらく楽しめる。ただ嗜好がすこしずれると、生ぬるいと思う方もおられるかもしれません。
ひょっとしたら、こんなのが典型的な「きみとぼく小説」なのかもしれないな、と思ったりしました。
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2004年04月16日
清涼院流水「トップラン&ランド 完」(幻冬舎文庫)感想
いやはや、またしても私のキャパシティを超えてしまった感じですね。
幻冬舎文庫書き下ろしで刊行された「トップラン」全6巻、および不測の事態により突如完結した「トップランド」全3巻の世界をつなぎ、完全に閉じるための作品。もちろんこの本からも入門可。
いやーすごい。個人的に「トップランド2002」のラストは高く評価しているのですが、まさかこうした形で「続き」が書かれるとは。具体的には、原典を直接読んでいただくほうが良いかと思いますが、作品の「終わり」に関する議論に対して、これまた今回も挑発的な形で考えを示されたのだと思います。「あら? これで終わり? あれはけっきょくどうなったの?」という感じを受けることは確かですが、それこそが真の狙い……なのだと思います。きっと。
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2004年04月24日
薬理凶室「アリエナイ理科ノ教科書」(三才ブックス)感想
ちょっと前にカトゆーさんとこで知った本。bk1で注文したら品切れだったと前に書きましたが、その後入荷されたようで個別にメールが来て届けてもらいました。流通システムの怪。bk1の対応の良さに感動(一般書店ではついぞ味わったことがない)。
で、本編の内容。毒ガス、覚醒剤、銃器といった、とかく一般的には危険、不謹慎、アングラと見なされがちな分野を、真面目に「理科」として解説する暗黒教科書。高校〜大学レベルの生物/化学/物理の内容ながら、文章は丁寧で面白く、そこはかとなくマニアックなネタも満載で楽しい。
この本を読んだからといって、実践はひとつとしてしていない(できない)のですが、本当は、理科(あるいは科学)の醍醐味というのは実験にあるもの。それによって、新たな技術が生み出されていくわけです。その探究心自体には、良いも悪いもありません。
「科学技術の妄信に警鐘を鳴らす」とかいう文言がたびたびマスコミなどでくり返されていますが(なんと大学教授にまでそういう物言いをする人がいる!)、そんな馬鹿な話はありません。そもそも「科学技術」という言葉はおかしくて、科学と技術ははっきり別物です。
世のさまざまな現象を系統立てて(科)その理(ことわり)を見出そうとするのが「理科=科学」。それを土台として種々の新たなツールを創り出すのが「技術」です。技術は往々にして人々の役に立つために生み出されますが、科学はそうとは限りません。役に立たないからこそ面白い、という面も確実にあるわけですし。
といって、両者が不可分の関係にあるのもまた事実で、なんとかして新たな技術を得たいがために科学を発達させる、という例も多く見られます。そもそも現代化学の発祥はまさに実利的な「錬金術」であるわけですし。そして、歴史をひもといてみれば、戦争、軍事産業が、技術の大いなる原動力となったことは周知の事実。ヒトという種族の先天的ベクトルがその方向に向いているのだから当然です。それを、すぐさま「悪」とか「愚かしい」といってしまう思考停止こそが、もっとも忌避すべき狼罪なのではないでしょうか。
もちろん、秩序社会に身を置くものとして、タブーは確実にあります。今、この社会において、これこれのことをしてはいけない、というルールは遵守すべきものだと思います。悪法もまた法、とまで言いたくはありませんが。
でも、だからといって、「これをしてはいけないから、これにつながる技術を持ってはいけない、その基礎となる科学の研究はしてはいけない」などという法はありません。はっきりいって暴挙です(そういうことを言う人は大抵科学のなんたるかも知らない「文系」の輩なわけですが、悲しいかな今の社会(日本)ではそんな人が大多数。すくなくともマスコミ・法曹界・政界に身を置く人のうちで、「理系」といえる比率はそれこそ消費税以下でしょう。しょうもない話ですが)。
何故か、と問われれば、ルール、あるいは倫理は時代によって移ろうものだから。とくに生命倫理などはその最たるものでしょう。何の権限があって、たかだか百年程度しか生きられない今の世代の人間が(それも、そういうことを言うのは人生の大半を終えている世代)、現代の倫理をもって未来を縛ろうとするのか。
科学者なら、それが許される、というわけではありません。ただ、科学というものは、本質的に反社会性を帯び、逸脱している。それゆえ、普遍性を獲得できる可能性があります。科学者は可能性でしか物事を語らない(笑)。
いろいろな意味で書きすぎました。それほど大層なものでないような気もします。ただ最近の風潮から言っておきたい気もしただけ。とりあえず公式サイトでも配布している用語辞典だけでも見る価値あり。
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秋山瑞人「猫の地球儀 その2・幽の章」(電撃文庫)感想
すっかり読むのが遅れてしまいましたが。前編「焔の章」の感想はこちら。
これもですね、あとがきを読むと上の話につながるところもあったりして興味深いのですが。
けっきょく、スカイウォーカーとはなんだったのか?
「トルク」に棲む猫たちにとっては死後の世界であり、神聖な対象である「地球儀」へ行こうという夢を追い求め、他人(猫)の夢を、生を砕き、その先にスカイウォーカーが見るものは。
あるいは、「セカイ系」との絡みで言うならば。
セカイ系とは、私見では、共同体幻想が崩壊し、共有すべき(そして交換不能な)「大きな物語」を信じられなくなった、あるいははじめから持ち合わせていない現代日本の若者たちにとって、それよりもっと個人的で、それゆえ、リアルに信じられる、自分と世界との関わり方。
ならば、この「猫の地球儀」という世界の中で生きる者たちにとって、その「物語」とはなんだったのか。それは本質的に交換不能なものだったのか?
さらに、秋山瑞人作品に特徴的に見られるものとして、イラストの特異な使い方というのがあります。文中のイラストが、各章のはじめに一葉ずつ載せられるだけ、という、ある意味ライトノベルの主流からは外れた使われ方をされています(これは「イリヤの空、UFOの夏」でも同じ。その他の作品は未見のため判りませんが)。もちろん、これは前例がないわけではなく、たとえば「キノの旅」とかもそうなんですけど、とくにこの作品では、猫とロボットとはいえそれなりに格闘シーンもある中、その描写にイラストを挿入しない、というのはやはり意図的なもののように思えてくるのです。この作品の最後のイラスト、224ページなんかはめちゃくちゃ凄い。あくまで文章を中心に、読み手の頭の中に世界を構築させてきたからこその効果というか。
秋山節とも言うべき、ひたすらに身体描写を続け、同義表現をくり返し(西尾維新ほど先鋭化されてはいないものの)、その先に、なんともいえない切なさを描く。
そういう意味で、秋山作品は、いっけんきわめてマンガ的/映像的世界を見せていながら、本質はまごうことなき小説のそれなのではないか、と思いました。
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北村薫「朝霧」(創元推理文庫)感想
これは、すごいシリーズなんじゃなかろうか。
この作品を評価するにあたって、ふたつの捉え方があって、まずひとつめは、単純に三つの短編からなる推理小説だというもの。これだけでも十分に楽しめます。とくに二編めの「走り来るもの」は、リドル・ストーリー(解決編の存在しない物語)の最後の二行を推理するというもので、その解答の美しさと恐ろしさには思わず息をのみました。
しかし、この作品の真価は、もうひとつの捉え方をしたときに見えてきます。それは、北村さんのデビュー作「空飛ぶ馬」に始まる「円紫師匠と私」シリーズ全体をひとつの物語として見るというもの(既刊はすべて創元推理文庫所収)。一作ごとに、「私」はすこしずつ人生の歩を進め、今作ではついに大学を卒業し、みさき書房という出版社の編集者となります。日常に些細な謎が立ち表れ、それを落語家・円紫師匠が鮮やかに解きほぐすのは変わらずとも、それを取り巻く世界が驚くべき広がりを見せています。
もちろん、当初から北村さんの作品に一行たりとも無駄な文章はなく、すべてが主題へとつながっていく美しさは存分に味わえたのですが、ここに至り、なんとシリーズ前作の記述までが伏線として効いてくる。この作品の三つの連作短編のなかでも、相互の糸の紡がれ方は非常に美しい。かつての同級生、高岡正子(正ちゃん)や江美ちゃんも登場しつつ、それぞれの道を歩んでいる様子が、確固とした現実感をもって描かれています。そして、すべては「朝霧」の最後へと連なり、読者は「私」とともに明日へと人生を歩んでいくことができる。
本は素晴らしい。物語は、素晴らしい。我々は、その中にもうひとつの「人生」を生きられる。
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2004年04月26日
乾くるみ「イニシエーション・ラブ」(原書房ミステリー・リーグ)感想
……どうやって感想書きゃいいんだ、こんなもん(笑)。一応言いますが、あからさまなネタばれはしませんけど、未読の方は以下ご注意を。
読み終わって思わず、「え? えええ??」と声を漏らしてしまいました。
まず最初に、乾くるみという作家をご存じない方のための説明。
乾くるみ氏は1998年、「Jの神話」という作品で第4回メフィスト賞を受賞しデビュー。破格の作品を数々世に送り出してきたメフィスト賞ですが、この作品はその中でも群を抜いて凄かった。一見「お嬢様学園系ミステリィ」なのですが、その結末があまりに飛んでいることで話題に。その後も、竹本健治氏の名作「匣の中の失楽」にオマージュを捧げた(といいながらラストはやはり恐るべき展開を見せる)「匣の中」、「塔の断章」を講談社ノベルスから、さらに徳間デュアル文庫でははっきりSFに振れた「マリオネット症候群」、そして昨年は短編集「林真紅郎と五つの謎」を光文社カッパノベルスから発表。短編集を除けば、そのどれもが超絶のラストを迎えるというマニアックな作風。
ということで。
今回、オビにはほとんどネタばれじゃないのかと思えるくらいの煽り文句が書かれていても、まさにそれを期待して読んだのですが。
……こうくるか。
はっきり言って、編集部の判断は正しいと思います。いくらこれが原書房ミステリー・リーグという、ある意味ミステリィマニアをターゲットにしたシリーズから出たものだとしても、こういう注意をうながさなければ、たぶんほとんどの人は何がなんだか判らないでしょう。それくらいおそるべきラスト。これに比するのは、あれですね、某新本格第一世代のあの方の代表作くらいかも。
私は、最近ミステリィの勘が鈍っていたのであれでしたけど、敏感な方ならネタを見抜けるとは思います。ただし、こういうラストだとはおそらく誰も見抜けない。
それで、この作品の恐ろしさは、まさに一読した後のこと。つまり、こういう真相だったのなら、あの人物の言動はすべて……(!!)ということになるのでして、それこそがまさに作者が書きたかったことなんだろうとは思いますが……。
しかし、屈折してるなぁ。
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2004年05月08日
斎藤美奈子「文学的商品学」(紀伊國屋書店)感想
古書即売会で買ったのですが、奥付を見ると発行は2004年2月23日と、まだ新しい本ですね。「文章読本さん江」の作者の本。といって、そちらは読んでないですけど。
結論から言うと、なかなか面白かったです。「ファッション」「食べ物」などといったように、小説をそれに登場するモノの描写を主軸にして読むという主旨で、こう読むか! という新鮮な見方が提示されていて楽しめました。文章も、ややこき下ろしがきつい面もあるにせよ面白い。
ただ、私としては非常にもったいない。せっかくこんなに面白い本の見方を提唱したのだから、もっと多彩な作品について読んでみたかったところです。なにしろ、文中でとりあげられている作品で、私が読んだことあるものが非常に少ない。夏目漱石とか森鴎外(ほんとは異体字)はともかくとしても、あとはせいぜい村上龍、清水義範あたりがやっと。なぜか、オートバイの章で時雨沢恵一「キノの旅」が挙がってたのは笑いましたけど。なんといっても、ミステリィ系がほとんどないのが残念。本格ミステリィにおける、ファッションや家の間取りなどの描写の意味について考察したら面白いと思うんですけど(伏線だ、伏線!)。あとは、カタログ小説と名づけられた、商品などの企画が先行したような作品群なんか、たとえば岡嶋二人なんか面白いと思うし、バンド文学と言えば歌野晶午「ROMMY」は外せないし、特異な文体と言えば舞城王太郎を語らずしてなんとする、といった感じなのですが。自分で考察しろ、と言われそうですね……。
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えむいち。