2008年10月05日(日)

瀬名秀明「デカルトの密室」(新潮文庫)感想

 これは壮大なロボットSFミステリ。著者のデビュー作「パラサイト・イヴ」は、森博嗣先生が小説を書こうというきっかけになった作品としても一部で有名ですが、本作品はさながら「すべてがFになる」。むしろ物語の重厚さを思えば「有限と微小のパン」のほうが近いでしょうか。バーチャルリアリティ、ヒューマノイドといった現代技術の最先端。そしてフランシーヌ・オハラという天才少女からは、真賀田四季を連想せずにはいられません。
 SFというジャンルは、ミステリ以上に束縛の強いジャンルであるように思います。ロボットものであれば、アイザック・アシモフをはじめとする偉大なる先人の紡ぐ系譜。また、ハードSFであれば、現実の技術を基にしつつ、そこからわずかに物語的飛躍を加えなければならない。
 そんな束縛の強い環境の中にあって、それだからこそ描かれるもの、得られる自由とは。この物語において、ロボットであるケンイチが自我について考えるように、それを生み出した研究者たちも、自我について、自由について考える。この物語をミステリとして捉えたとき、解かれるべき謎とは、人間という存在そのものについての謎。開かれるべき密室とは、この世界そのもの。
 少し話は変わって、物語を束縛する要因としてもうひとつ、この現実そのものがあります。作中では、ロボットが実用化されつつある状況の中、ある事件によって、ロボットに対する人々の受容のあり方が大きく揺らぐことに。また、この小説の主人公として、研究者でありながら小説家でもある、著者自身と重なるような人物が設定されています。ここから、物語と現実とを二重写しにしようという意図が見受けられます。描かれる物語は、けっして今ある現実と無関係なものではありえない。そんな物語に、人はどう向き合うか。そして、この世界をどう生きるか。
 紡がれる言葉の端々に、瀬名秀明という人の研究への真摯さ、それに相反するような現実世界への苛立ちが現れていて、この人も、森博嗣と同じくらいに純粋なんだなぁという思いを抱きました。


2008年10月05日 23:15 []