西澤保彦「謎亭論処ー匠千暁の事件簿」(祥伝社文庫)感想
■タック&タカチシリーズ
また西澤作品が何冊かたまったので、読み進めます。今回はタック&タカチシリーズ(命名・森博嗣)。その名の通り匠千暁(通称タック)と高瀬千帆(通称タカチ)、その他数名のキャラを中心とした連作。これに限ってはシリーズ何作目かというのは意味をなしません。出版社もバラバラ、描かれる作中の時代もバラバラという、時系列レーベルくるくるシャッフル状態なので。とくに今回は短編集なので、一冊の中でも時系列が錯綜。
■酩酊のロンド
しかし、それでも読みにくさがまったくないのは、ひとえに酩酊推理ともよぶべき、このシリーズの特異な謎解きスタイルにあるでしょう。彼らの前に立ち現れる不可解な謎。それを酒の肴と、あーでもないこーでもないと杯を交わし酌をくみくみ、もはや妄想の領域に達するような「真相」に至る。時が流れ、彼らの立場や関係が微妙な変化を遂げても、それは変わらない。ねこは時空を超える生き物といいますが、この場合、トラも時空を超えるのでしょうか。同じネコ科ですし(誰がうまいこと言えと)。
■時ならぬ悪意の奔流
そんな感じで表面的には軽快なタッチの作品なのですが、そこはそれ西澤保彦。いつもながら、謎の真相に潜む、人間の悪意が鮮烈。「時ならぬ悪意の奔流」というのは、作中人物が漏らした言葉ですが、言い得て妙。町の交差点の曲がり角で、駅のホームから列車に乗り込んだ矢先で、学校の体育館裏で、ふとした瞬間に否応なく目にしてしまう悪意。この人はひょっとして、現実に存在するそんなものに耐えられなくて、作品の形で昇華しようとしているのではないか、そんなことも思ってしまうのです。どの一篇をとっても、膨らませれば鬱アニメの一クールくらい作れそうです。
2008年05月14日 23:11
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