2008年01月29日(火)

森博嗣「もえない」(角川書店)感想

森博嗣_もえない

僕は、その言葉を発音できるほど大人になっていたのだ。(淵田)

 萌え出づる鍵的世界。

 圧倒的な幻惑と浮遊。オビには「森ミステリィの異領域」なんて書かれてますけど、どうでしょう、これもある面ではど真ん中の直球ではないかと思います。物語を牽引する一要素である「プレートの謎」に解答(というか解釈)が与えられ、そして珍しくもタイトルの真意まで明かされる最終章。そのテーマは森作品ではおなじみのもので、なんで思い至らなかったのかと不思議なくらい。
 封印された記憶をめぐる物語がときとして哀しみを伴うのは、本当は忘れたい、なかったことにしたい過去が明かされるから。雪が降り積もるように、埃が堆積するように、長い時間をかけて人格は作られる。やがて、元の形が判らなくなるくらいに。その外枠は、さながら「ベールのようなもの」。その覆いをはがして、元々の形をたしかめる行為が、すなわち「unveil」、解明するということ。それが本格ミステリにおけるカタルシスの源泉ともなる一方で、切なさ(刹那さ)をも生む。ノスタルジィともまた違う、見事な少年小説でした。そして存分に萌えました。

2008年01月29日 21:43 [] [森博嗣]