「もうひとつの “あり得たかもしれない過去” ーそれは本来、人間が知ってはいけないことなのです」(ハーレクイン)
三冊目。これまた完璧な短編集。今回はさしずめ「笑ゥせえるすまん」?「xxxHOLiC」? ごめんなさいねぇ、こんな読み手で。クリスティなんてほとんど読んだこと無いもので。学生アリス? なんのことやら〜。
まあそれはおいといて。相変わらず気持ちの悪い人物描写が卓越している作家ですね。ただ、そういう他者への悪意が、そのまま殺意へとつながるわけではないのが、まだしも救いというか、むしろ救いようがないというか。目に見える悪意をステレオタイプに書くのは簡単だけれど、目に見えないものを描くのは非常に難しい。そして、ほぼすべての作品でそれに挑み、かつ成功しているのがこの作家。
小説の中での時間の経過は、ほぼ作品の分量に比例するーというのをどっかの小説技法の本で読んだ覚えがありますが、そういうものも軽々と破ってしまうのがこの作品群。「名探偵」ハーレクインの見せる幻だったり、まぎれもない回想だったりしつつ、各短編で依頼者のほぼ一生を描ききってしまっている。その中で、ほんの小さなきっかけ、すれ違いが、大きく根を張って異形の花を咲かせる。「パズラー」の冒頭短編「蓮華の花」でも、ほとんど同じ構造が描かれていますが、本格推理的カタルシスとも似て非なる、これが西澤保彦作品の核なのかもしれません。