「人間はね、少年。本来、なりたいものに、なれるものなのだよ」( )
待ち焦がれ続けた西尾維新「戯言シリーズ」最新作にして最終章。はじまりがあれば終わりもあるのは世の常ですが、しかしはじまりから終わり続ける物語なき物語にもすべからく終わりは訪れるべきものなのか。そんな感じで「ネコソギラジカル」、開幕です。
何度でも言いますが、私にとって「西尾維新」という作家は特別すぎる存在です。今こうしてネット上で顕在するぷらとーの人格の半分は西尾維新でできています、と言ったらそれは過言ですが(すみません、この口ぶりを一度やってみたかっただけです)。この本の中でも何度となく、「いーちゃんは誰にでも似ている」という表現が出てきますけれど、まさに私にとっていーちゃんという存在は今まで読んだ小説のキャラ中、もっとも自己同一視してしまう存在でありまして。「いーちゃんってオレじゃん!」と思わせた時点でもう西尾維新の勝ち決定! ただしエキシビジョンマッチ、みたいな(今回巫女子ちゃんが出てこないのが物足りないなー)。
どんどん本筋からそれまくってますが、最近それが微妙に心地良いのでとことんやってみます(おい)。他人が傷つけられるのを見るくらいなら、自分が傷つくのを望む、っていういーちゃんの性。もう、まさに最近、そういう精神状態だったものでちょっと参ってるんですが。時代の雰囲気のつかみ方が非常に巧いです。私が思うに、最近の「メフィスト→ファウスト系」作家のうちでは西尾維新こそがもっとも現代らしい作家だと思います。舞城王太郎とか、ひょっとしたら佐藤友哉のように、ある意味判りやすい形で「純文学界」なるものに認められつつある面々よりも、もっと「平成」の匂いを感じるというか(この人たちの文才を認めないというわけではないです)。
その文章から、表面的には「キャラ萌え作家」として捉えられているであろう西尾維新(本人談では「萌えキャラ殺し」の異名を取るとか)。しかし、この作家には普通のキャラ萌え文脈とは明らかに一線を画す特徴があります。それは「主人公である少年を目立たせる」という一点。
ここから、なんか東浩紀の評論めいてきますが、ギャルゲーの主人公は通常目が描かれない。その没個性によって各プレイヤが主人公に自己を投影できる仕組みです。それを受け継いで、マンガ・小説などのジャンルでもいわゆる「萌え系」作品では、主人公を比較的無個性な人物に設定する傾向にあります(私の観測する限りでは)。何の取り柄もないごく普通の男の子が、何故か大勢の女子キャラに好かれる……というのが「ハーレムアニメ(マンガ)」の派生パターン。もちろん、小説にも類例は多くあります。たとえばデビュー時期が近しいライトノベル作家・谷川流を引いてみてもそれは明らかで、戯言シリーズのいーちゃんと同じく本名が与えられていない「キョンくん」(涼宮ハルヒシリーズ)にしろ、高崎由悠季(学校を出よう!シリーズ)にしろ、すっかり朴念仁無個性キャラが確立しています(学校シリーズでは高崎兄が主人公だったのは実質一作目だけですが)。
ひるがえって西尾維新の場合。いーちゃんも表面的にはそういう無個性主人公に見えます、というかそう見えるよう描かれています。本名の提示されない一人称。一作目「クビキリサイクル」での第一印象は、天才に囲まれて右往左往する凡人。そうだったはず。しかし、それは巧妙なミスディレクションだったことがシリーズを経るに従って明らかになります。ただものではない「いーちゃん」。名探偵以上に名犯人らしい主人公。そして彼に与えられるのは「戯言遣い」の二つ名。一人称の枠を超えて、語る語る語る。それこそがまさに彼の特異な個性を表しています。
そうして、ここからが更にひねくれたところなんですが、その語られた内容によって主人公の内実が明かされるかと思えば、まったく明かされない。この上巻で語られた内容のうち、「いーちゃん」の過去についてシリーズ前作に加えて明らかになった事実がどれだけあるか。おそるべきことに、ほとんどないのです。箇条書きにすれば一ページも埋まらないと思えるほど。「誰にでも似ている」という秘訣はここです。具体的なことを描かずに、抽象的な「人間の弱さ」を描いているから、誰にもあてはまるのは当たり前。血液型別診断と同じトリックですね。
それにしても、「戯言シリーズ」というシリーズ名はけだし名文句です。主役は「戯言遣い」にあらず、「戯言」そのものといっていいわけですからね。
でまあ、そんな作品なのにもかかわらず、いや、だからこそと言うべきか、一ページごとが相変わらずめっぽう面白い。「〜ジカル」シリーズ通じて顕著な構成として、意図的なものだと思うんですが、物語の前半では、主人公は何もやってない、事件が何も起こらない。キャラがふたり以上いて会話を続ければ(もっと言えば、いーちゃんひとりだけの語りであっても)それで作品が成立してしまう。このあたりは、前言を翻すようにもとれるのですが、キャラ萌えの力を最大限に利用していて素晴らしいと思うのです。
ということで、それにも関連して、まったく作品の具体的な内容に触れずじまいでしたので、最後にひとつだけ。一応ですけどネタばれ注意。
あのですね。
今回の最萌えキャラ、闇口崩子ちゃんなんですけど。
「わん」
って!! いーちゃーん、あんたは犬派ですか! いやまあ、これでも充分以上の破壊力でしたけどさ。そこはやっぱり「にゃー」でしょうよぅ。「『ネコ』ソギラジカル」なんだし。西尾維新自身、その含意に気づいてないはずはないと思うんだけどなぁ……。まあ、犬派なんだとしたら、私といーちゃんとの違いが見つかって良かった、みたいな(なんのこっちゃ)。
中巻以降ではネコミミモード崩子ちゃんを待望しつつ筆を置く次第であります。って、そもそも刊行時期がいまだに未定(重複表現)なのですが……。
[bk1] [amazon]